コールドプレイ来日公演レポ 未来と愛を壮大に描く「音楽」のメッセージ

4人だけで鳴らす音

また特筆すべき点と言えばもうひとつ、ステージに立つパフォーマーはメンバーのみで、サポート・プレイヤーもバッキング・シンガーもいない。4人だけでこれだけのスケールのショウに見合う音を鳴らしているというのも驚くべきことだ。中でもやはりフロントマンのクリス・マーティンが湛える無尽蔵のエネルギーと存在感には、いつものことながら圧倒されるばかり。広いステージの上を縦横に動き回り、終始スマイルを浮かべ、懸命に日本語でMCをこなし、フレンドリーな温もりを醸してオーディエンスとの距離感を縮める彼の動きを追っていると、こちらも微笑まずにいられなくなる。


Photo by Teppei Kishida


Photo by Teppei Kishida

そんな彼ら、亡くなった家族のために歌って欲しいというファンのリクエストに応じて披露した「Everglow」から、一面イエローのライトが瞬く会場にじわじわと染み渡らせた「Yellow」、映像でBTSの参加を得た「My Universe」に至るまで幾つもの見所を用意してくれたが、中でも最大のサプライズは第四幕で待っていた。そう、アリーナ後方にしつらえた小さなステージに移動して「これをやるのは今夜だけかも?」と思わせぶりに紹介したのは、そのBTSのJINのソロ・シングルであり、コールドプレイが共作した「The Astronaut」。発表直後にブエノスアイレス公演でJIN本人と歌ったことがあるものの、今宵は4人だけのアコースティック・バージョンに仕立てて、現在入隊中のJINに捧げた。宇宙飛行士をメタファーにしているだけに、ショウのコンセプトにも合致する曲だ。



その後メイン・ステージに戻って、エンジェル・ムーンなるパペットとデュエットする「Biutyful」でフィナーレを迎えると、誰もいなくなったステージには“BELIEVE IN LOVE”の文字が浮かび上がる。ともするとナイーヴにも聞こえるメッセージだが、未来への希望を維持するのが困難な時代に、アイロニーを排除して屈託ないオプティミズムと喜びとポジティヴィティを提示する、コールドプレイならではの置き土産だと言えるのかもしれない。



またあれは「The Astronaut」の前だったろうか、「これは毎回やっていることなんだけど、世界のどこかに君らの愛を送り届けてもらえないかな。ガザでもアルメニアでもスーダンでもいい。あちこちで悲劇が起きていて、苦しんでいる人がいるから」というクリスの訴えに応えて、誰もがハートの形を手で作って頭上に掲げている美しい光景が広がった。あの瞬間、東京のど真ん中から、何か目に見えないエネルギーが立ち上って世界中に発信されたと信じたい。

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