2023年ベスト・ホラー・ムービー トップ10

ILLUSTRATION BY MATTHEW COOLEY. PHOTOGRAPHS USED IN ILLUSTRATION: SHUDDER/IFC, UNIVERSAL PICTURES, PABLO LARRAÍN/NETFLIX. HULU

幽霊屋敷が舞台のローファイな傑作から、日本を代表する怪獣映画の最新作にいたるまで、2023年は背筋が凍るようなホラー映画が目白押しだった。米ローリングストーン誌が選んだ2023年の10本を紹介する。

気味の悪さという点では無敵の作品や、誰もが知るシリーズ物のリブート/リメイクが数多く生まれた年……。総括すると、2023年はそんな1年だった。

いまでもホラー映画は、金曜日の夜のシネコンに欠かせないジャンルとして親しまれ続けている。公開の週末にそこそこの観客を動員するだけでなく、ポップコーンのお供にぴったりの恐怖体験を提供してくれるこのジャンルは、まさに不況知らずと呼ぶにふさわしい。それだけでなく、ホラーは志の高い映画監督が低予算で実験やディスラプションに挑むのにぴったりのジャンルでもある。また、ジェイソン・ブラムやジョーダン・ピールといった大御所たち、さらにはA24のような新進気鋭の映画スタジオが常に鮮血——比喩的にも文字通りにも——を世に送り出すための格好の手段でもあるのだ。今年は、熱狂的なホラー映画オタクの支持を集める動画配信サービス「シャダー」がさらにハイレベルな作品選びを展開し、世界中から集めたおしゃれでいたずら心のある直球ホラーを配信した年でもあった。

予想通り、今年もホラー界のレガシーともいうべきシリーズ物のリブートやリメイクが次から次へと生まれた(『ソウ』と『スクリーム』の最新作など)。そのいっぽうで、新たなシリーズ物の誕生を予感させるような作品もあった。なかには、『M3GAN/ミーガン』や『プー あくまのくまさん』のように、SNSでのバズりを狙いにいったものもあれば、「続編があれば、ぜひ見てみたい」と思わせるような、高いポテンシャルを秘めた作品もあった。『It Lives Inside(原題)』や『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』の監督たちが、続編でどんな展開を見せてくれるかも楽しみだ——続編がなかったとしても、次回作に注目したい。

ほかにも、サプライズや新たな発見もあれば、既存のサブジャンルから放たれた変わり種や衝撃作もあった。あまりの豊富さに、人気ホラーゲームを実写映画化した話題作『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』や『エクソシスト 信じる者』の存在感を多少なりとも薄れさせたほどだ(ちなみに『エクソシスト 信じる者』は、新「エクソシスト」3部作の第1弾である)。

伝説的な怪獣映画のリメイクから、フォーク・ホラー風の悪夢、さらには監督主導の黙示録的作品から、ローファイな恐怖の祝宴にいたるまで、ローリングストーン誌が厳選した2023年を彩ったベスト・ホラー・ムービー10選をご紹介する。どうやら私たちは、ホラー界のルネサンス、ひいてはヌーヴェル・ヴァーグの真っただ中にいるようだが、ただオーディエンスの腰を抜かすだけにとどまらない、多彩で進化を止めないこのジャンルならではの、古き良き恐怖を感じさせてくれる手堅い作品もあった。(今回は選ばれなかったが、以下の作品にも拍手をおくりたい。『Angry Black Girl and Her Monster(原題)』『The Blackening(原題)』『死霊のはらわた ライジング』『Final cut(原題)』『ファイブ・デビルズ』『Influencer(原題)』『It Lives Inside』『The Outwaters(原題)』『ラン・ラビット・ラン』『TALK TO ME トーク・トゥ・ミー』)

10位『ノック 終末の訪問者』

MORGAN "MO" SMITH/UNIVERSAL PICTURES

『地獄の黙示録』(1979年)のサブジャンルへの参入ともとれるM・ナイト・シャラマン監督の終末スリラー『ノック 終末の訪問者』は、『シックス・センス』(1999年)などの大作を手がけてきた監督のこれまでの作風とは少し趣を異にしている。脚本家ロッド・サーリングとスピルバーグ監督を掛け合わせたかのようなその作風と比べると、どことなく“カビ臭い”においが漂っているのだ。そのいっぽうで、ホラー映画監督としての手腕がみごとに発揮されているのも事実。終末論を信じるカルト集団に捕まった家族というシンプルな設定を巧みに利用し、見る人の神経を徹底してすり減らしていくのだ。住居侵入と神の介入を描いた『ノック 終末の訪問者』以前の多くのホラー映画がそうであるように、森小屋からはじまる本作のストーリーは、この限られた舞台のなかで巧みに縮小したり拡大したりする。エンディングは、原作となったポール・トレンブレイの同名小説のファンのあいだで物議を醸したが、そこにはシャラマン監督の明確な意図があることも感じられる。デイヴ・バウティスタ扮する巨体の男は、ホラー映画を彩ってきた狂信的な歴代サイコパスのひとりにぜひとも加えたい。


日本公開:Amazon Promeにて配信中

9位『ゴジラ-1.0』

TOHO LTD.

俗っぽさとド派手感が共存する昭和のシリーズから、国家の危機管理を描いた2016年の『シン・ゴジラ』にいたるまで、東宝の「ゴジラ」シリーズは時代とともに進化を続けてきた。だが、原点でもあるアイコニックな1954年の『ゴジラ』にあった恐怖の要素が押しのけられ、アクションに焦点が置かれてきた点は否めない。それに対し、シリーズ最新作『ゴジラ-1.0』は、巨大怪獣が大都会を蹂躙しまくる様子を見て悦に入るという原始的な喜びを呼び覚ましてくれた。そのいっぽうで、罪の意識や後悔、戦争、悲しみが織り込まれた物語が展開される。実際、1945年の戦後の日本で暴れ回るゴジラは、『ジュラシック・パーク』(1993年)さながらの恐ろしさで、腹を空かせた怒れる怪獣の本質をみごとに描き出している。元特攻隊員の主人公(神木隆之介)が、恋人(浜辺美波)と暮らす街がゴジラに破壊され、人々が虐殺される様子を見つめるなか、きっとあなたは、この怪獣が“キング・オブ・モンスターズ”の称号を本当の意味で取り戻したことを実感するに違いない。ゴジラが海面から背びれをのぞかせて船舶を追いかける、『ジョーズ』(1975年)へのオマージュともとれるシーンには、ボーナスポイントを差し上げたい。ゴジラとジョーズ——どちらも映画史に名を残す一流のモンスターである。




Translated by Shoko Natori

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