3月13日にリリースされるAJICOのニューEP『ラヴの元型』レコーデイング終了直後にインタビューを実施。UAと浅井健一が伝説的バンドの「今」を大いに語る。最新作の完成形を想像しながら読んでみてほしい。UA(Vo)、浅井健一(Gt、Vo)、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)。この4人で2000年に結成され、約1年間を駆け抜けて活動を止めたAJICOは、鍵盤とサウンド・プロデュースに鈴木正人を加えて2021年に再始動。EP『接続』のリリースと「Tour 接続」、それにフジロックなどのフェス出演で、時を超えて鮮やかに再生したことを印象付けた。コロナ禍真っ只中という厳しい時期ではあったが、メンバー全員がAJICOをより良いバンドにすべく結束し、その唯一無二のライブのありようからは彼らがさらに“この先”を見据えているようにも感じられたものだった。
そして「Tour 接続」のファイナルから2年と数カ月(再始動から約3年)。昨年11月にAJICOは突如、全国ツアー『アジコの元型』の開催を発表。コロナの影響が残るなかで前回は断念した人を含む多くのファンを大いに喜ばせたが、それだけではない。バンドはしっかり新しい音源の用意もしていたのだ。
ツアーに先駆け、3月13日にリリースが決まっている全6曲の新EP『ラヴの元型』。そのレコーディングを1月15日の週に終え、ミックスダウンが行なわれている最中だという1月23日に、UAと浅井健一に話を聞いた。ミックス前の音源を聴いてすぐのインタビューであり、この段階では曲順も決まっておらず(※2月9日に発表)、表題も直前に決まったばかり。本人たちもまだ全体像を客観的に捉えることのできていないタイミングではあったかもしれないが、それだけにまた動きだした現在の思いや、新しい楽曲の誕生にあたっての逸話と手応えに対する生々しい言葉を聞くことができたように思う。
AJICOの最新アーティスト写真左から時計回り:UA(Vo)、浅井健一(Gt, Vo)、TOKIE(Ba)、椎野恭一(Dr)AJICOは「楽しいから続けたい」―2023年も、おふたりとも非常に精力的に動いていたという印象です。浅井さんはSHERBETS結成25周年ということで、ライブとリリースをものすごいスピードで重ねていって。SHERBETSで行けるところまで行こうというモードだったわけですよね。浅井:うん。そうですね。
―UAさんも2022年に引き続き、新しいバンドでライブをたくさんされていました。あのバンドは本当に観る度に進化を感じます。無限の可能性があるバンドだなぁと。UA:ありがとうございます。すごい嬉しいです。成長を諦めないバンドなので。
―7月にはリキッドルームでSHERBETSとUAさんの2マンもありました。それぞれのバンドで共演する機会は、今まで意外となかったですよね。UA:1回もなかったんじゃないかな。
浅井:ずっと前にブランキーとミッシェルとUAで、大阪の港のほうのでかいところでやって以来じゃないかな。あのときは盛り上がったね(1999年8月15日、大阪南港で開催されたイベント「RHYTHM TERMINAL」)。
UA:ああ、あったね。あのときの私はルースターズのチームがバックをやってくれて、ロック色も強かったときだったから。
―去年の2マンはやってみてどうでした?浅井:単純にすごい楽しかったですね。
UA:自分たちはジャンルの違いとか、そういうのまったく関係ないんですけど、「お客さんはどう受け止めるのかな?」って思っていたんですよ。でもみんなえらい楽しそうだったから「なんだ、いいんだ」って。
―どっちも好きという人が意外と多かったようで、すごくいい雰囲気でしたよね。UA:そうですね。だから楽しかったです。
―で、AJICOをまた始めようという話には、いつなったんですか?浅井:さっきの取材で判明したんですけど、ちょうど1年前くらいに代々木の蕎麦屋で会議がありまして。そのときに「やろうか」って話になった。ってことをさっき思い出しました。
―2023年はそれぞれの活動をやれるところまでやって、じゃあ次はAJICOだねと。浅井:そういうことなんでしょうね。
UA:タイミングって大事だよね。私がずっと日本にいるなら、もっとリラックスした感じでやりたいときにやろうってできるかもしれないけど、ずっと日本にいるわけじゃないから(現在はカナダに移住)、前もって決めていかないと動けないんですよ。
―2000年〜2001年にかけてのAJICOを仮に「AJICO1」、2021年に再始動したAJICOを「AJICO2」と呼ぶとすると、今回はどうでしょう。僕は今回のEPの音を聴いて「AJICO3」というよりも「AJICO2」の続きという印象を持ったんですが。UA:そうですね。「2」はクローズしていないので。2021年の夏に東京でツアーを終えたんですけど、ちょうどチャーリー・ワッツが亡くなったときだったんです。で、一緒に車に乗っていて、いつかは自分たちもフィジカル的にできなくなるときが必ず来るわけだけど、できるうちはやりたいよねって話が出た、ってことを覚えていて。せっかくこうやってお客さんに喜んでもらえているんだから、やめるという選択はまったくないよねって話をした。だから恒久的に続くってことだと自分は思っているんです。そう、だからAJICO2の続き。2のまま。
―2021年のツアーをやりながら、これで終わりというわけではないなと感じていた。浅井:そうですね。大事なのは、ライブが楽しいと感じられることなので。それが自分のなかにあったから。楽しいライブは続けたいんで。
―2000年~2001年に活動したときは、ふたりでよく喧嘩もして、ツアーが終ると同時にバンドも終わったと、どこかのインタビューで読んだ記憶があります。UA:若かったからねえ。呑みすぎっていうのもあったかもしれない(笑)。
―それに対して、2021年のツアーは、より互いが互いを尊重しながら心底楽しんでやっているように感じられたんですよ。浅井:(鈴木)正人くんが入ったでしょ。それがでかい。正人くんが入ったことでサウンドも広がったし、ライブをやっていて楽しいんだよね。あとまあ自分の成長もあるだろうし。そういういろんなことが重なって。それと、お客さんも楽しそうでね。それもでかいかな。
UA:ファンのみんなはベンジーの歌が好きで、歌詞の世界観にぞっこんでっていうのをわかった上で言うと、本来浅井さんという人はギターを弾くことが何より好きなんだと思うんです。歌うことも好きだろうけど、それ以上にギターを弾くことが大好きで。そのときに鍵盤がいるのといないのとじゃギターの広がりが全然違うっていうのはあるんじゃないですかね。だから鈴木くんが入ったことですごく楽しくなったんだと思う。
浅井:キーボードがいると、やれることが広がるからね。ギターでコードをキープしなくてもいいとか、そういうのもあって。
UA:鈴木くんはああいう人だから、より引き出す感じで弾いてくれる。だから本当に正解でしたね、彼がサポートで入ってくれたのは。
左から3番目が鈴木正人―何しろメンバー全員がAJICOをもっといいバンドにしようと考えながらやっていることが、2021年のライブを観ていて強く伝わってきたんです。UA:20数年前のときは、4人でやることがそこまで貴重なことなんだと気付いていなかった。やっぱり時を経たから、こうしてまた集まれるのは貴重なことなんだって思うようになったというか。みんなが年をとって、いろんな経験をしたからこそ、気づけたことなんでしょうね。
―今回またAJICOで動き始めるってなったときは、どんな気持ちでした? 純粋に「ああ、また楽しいことが始まる!」というふうにワクワクする感じだったのか、それとも「気合い入れなきゃ」みたいな感じだったのか。浅井:みんなに求められている感じがあったから、やりたいと思った。もちろんツアーを発表する前からやることは決まっていたわけだけど、発表したらすごくいい反応がたくさんあったから、それで余計喜びがプラスされたって感じでしたね。
UA:私は前回のリユニオンのとき、本当に覚悟を決めて、気合い入れて取り組んだ覚えがあって。今回はやるってなったときに、もう少しラクな気持ちで……というかこう、日常の延長みたいな気持ちで取り組もうと、自分で決めました。
―気負わずやろうと。UA:そう、気負わないようにしようと自分で決めたって感じ。そのほうがよくなる……というか、気合いを入れても入れなくても実は結果は変わらないんじゃないかと思ったから。
―気合いを入れることが必ずしもいい結果に繋がるとは限らないと。UA:そうそう。
浅井:あんまりチカラ入らんほうがいいよね、なんでも。
―力まずにやるのがいい。浅井:じっくりやるって感じかな。そのほうがいいっていうのは、最近気づいたんだけどね。
UA:特別なことをしているというのはわかっているし、それは前提としてあるんです。ただ、そこに対して自分が気負わないようにするのがいいんじゃないかと思っている。だからそうできたし。「AJICO2」が始まるときとは全然違った。