アリアナ・グランデ、「運命の人」について思索するアルバム『eternal sunshine』徹底解説

アリアナ・グランデ(Photo by KATIA TEMKIN)

グランデがキャリア史上もっとも誠実で革新的な楽曲とともに新たなはじまりに向かって漕ぎ出す。

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「この人が運命の人だって、どうやって見極めたらいいの?」——3月8日にリリースされたアリアナ・グランデの7作目のオリジナルアルバム『eternal sunshine』は、この問いとともに幕を開ける。それに続く12曲は、その答えを探すための旅である。いまから5年前、大ヒットシングル「thank u, next」を収録したアルバム『thank u, next』(2019年)のグランデは、いつかはバージンロードを歩く自分の姿を思い浮かべながら、未来の自分が答えを見つけていると確信していた。

だが、現在30歳のグランデは、“永遠の愛”がいったいどのようなもので、どのような仕組みになっているのか理解するのは一生無理なのではないか、と思いはじめている。『eternal sunshine』が『Sweetener』(2018年)級の楽観主義にあふれていると期待する人は、きっと裏切られるだろう。なぜなら『eternal sunshine』は、グランデが自分の世界の終わり——あるいは終わりであると信じている場所——を目指すまでの見事なまでに赤裸々な旅を描いているのだから。端的に言って本作は、悲しみのあらゆるステージを通過する“別れのアルバム”である。そのいっぽうで、そこにはキャリア史上もっとも誠実で革新的な楽曲とともに、新たなはじまりに向かって漕ぎ出すグランデの姿がある。

まず最初にグランデは、失恋による痛手を乗り越えようとする。オープニングを飾る「intro (end of the world)」では、「この人が運命の人だって、どうやって見極めたらいいの?」という、本作の主題が提起され、それに続く2曲で答え探しがはじまる。2曲目の「bye」でグランデは未練を断ち切り、次に進もうとする。ドライブウェイまで迎えに来てくれた友人のコートニーの車に飛び乗り、新しい未来に向かっていくのだ。だが、3曲目の「don’t wanna break up again」では、先ほどの自信が揺らぎはじめる。自分に無関心なパートナーと別れたほうが良いことはわかっているのだが、それができずに彼の心を必死につなぎとめようとするのだ。ダイアナ・ロスのようにしっとりとしたボーカルが魅力の前半の楽曲からは、1970年代のポップスのアプローチが感じられる。







5曲目に収録されている表題曲「eternal sunshine」でグランデは、痛みのさらに奥へと潜り込む。ここでは、アルバムと表題曲の両方のタイトルの由来である2004年の映画『エターナル・サンシャイン』の恋人たちのように、「嫌な記憶を消し去りたい」と願うのだ。“最初にごめんって言うのは私/いまは、あなたのせいで本当にみじめな気持ち/私の嘘も嫌なところも全部さらけ出したのに/まるでビデオゲームみたいに弄ぶなんて”という歌詞とともにR&Bポップスへと展開していく様子が見事だ。



胸の痛みを歌った「don’t wanna break up again」と「eternal sunshine」の間には、それを乗り越えるためのちょっとしたアドバイスとして「Saturn Returns Interlude」という楽曲が挿入されている。これはダイアナ・ガーランドという、あまり名の知られていない占星術師の動画の音声をサンプリングしたもので、動画の中でガーランドは「(29歳になると)土星がやってきてあなたの頭をガツンと叩き、『目を覚ますんだ! いい加減、現実を見て、本当の自分と向き合いなさい!』とあなたに言うのです」と、29歳が重要な年齢であることを力説している。グランデはこの言葉を真に受け、それを実践しようとする。「eternal sunshine」以降の楽曲では、困難を乗り越える力と受容、どれだけ不確実であっても未来を前向きに捉える気持ちが歌われる。7曲目の「true story」では、リードシングルの「yes, and ?」(インパクトあふれる他の収録曲と比べると、どうしても弱い感じが否めない)と同様に、プロデューサーのティンバランドがR&Bシンガーのアリーヤのために作ったかのようなビートに乗りながら、アリアナ・グランデという世間のイメージを弄びつつ、「ヴィラン」あるいは「悪女」の役を進んで引き受ける。







Translated by Shoko Natori

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