女性ユーザーが「異世界ポルノ」にハマる理由、米出版業界で話題の「ロマンタジー」に迫る

PHOTO ILLUSTRATION BY MATTHEW COOLEY. IMAGES IN ILLUSTRATION BY ADOBE STOCK, 4; BLOOMSBURY PUBLISHING,1..

米・作家サラ・J・マースの幻想小説が、出版業界のサブジャンル「魔界ポルノ」をにぎわせている。

【写真を見る】「ほぼ裸」で電話をかけるトリシャ

全身フラグまみれの危険な男に、メロメロになる女性。昔からよくある、胸を焦がし、身体がうずき、身もだえする物語だ。ただし、ベストセラー小説『A Court Of Thorns And Roses(原題)』シリーズの著者サラ・J・マースは、こうした常套手段でロマンス小説界での地位を不動のものにしたばかりか、「魔界ポルノ」という出版業界のサブジャンルを再びにぎわせている。

今あちこちで「ロマンタジー」という言葉が話題になっている。出版業界に一大旋風を巻き起こした、既存のジャンルから生まれた新たな形式だ。出版の世界では成功間違いなしのマーケティング用語として定義されているが、内容はいたって簡単だ。言葉の通り、魔界の生き物や神秘的な文言といった従来のファンタジーの要素と、具体的かつあからさまな性的描写を織り交ぜたロマンス小説の形式の組み合わせだ(TikTokでは「spicy(刺激的)」と表現されることが多い)。#acotarというハッシュタグのついたTikTok動画はあっという間に100万件を突破し、閲覧回数は90億回に迫る勢いだ。

さらにその上、本の人気から派生したコンテンツサイトが山とある。「The Bat Boys(マース作品に出てくるセクシーなコウモリ人間の総称)」と書かれたTシャツがTikTokショップで販売されたり、本に描写される筋肉美を手に入れるためのエクササイズが紹介されたり(背筋が強くないと空は飛べませんから!)、もっと大胆な人々は、登場人物に扮したコスプレでばっちりキメて、ACOTARをテーマにした著作権違反すれすれの舞踏会に参加したりしている。マースが手がけた作品だけで16作もあり、おすすめ本の多さも相まって、マースは全世界で累計3800万冊のセールスを記録した。だが話題のマーケティング用語と人気というだけでは、マースがロマンタジーの女王に君臨する一番の理由を説明するには不十分だ。彼女の作品はどれもありきたりで、ストレートで、手に取りやすい。先月までの時点では、彼女の世界観を理解するには、とりあえず1冊のこらず読破するのがベスト、ということになっている。

あらすじをご存じない方のために説明すると、『A Court Of Thorns And Roses(原題)』は、人間の若い女性フェイラが不死身の魔界王と恋に落ちるという、『美女と野獣』もどきの古典的なストーリーだ。フェイラの家族が暮らすのは十中八九イングランドではなく、時代背景もはっきりしていないが、どうやら選挙は行われていないようで、女性が公の場で発言しても火あぶりの刑にされることはない。人間が暮らす町の隣には魔物が暮らす世界「プリティアン」があり、そこではフェイ大王が統治していた。19歳のフェイラは狩りの達人で、貧しい家族を養おうと苦労していた。ある日森で狩りをしていると、狼に姿を変えたフェイ大王を殺してしまい、罰として人間の生活を捨て、春宮の王タムリンの屋敷で(施しを受けながら)暮らすことになる。いざ屋敷に行ったフェイは、恐ろしくもイカした(「イカした」がポイント)春宮の王が、癇癪を起こすと唸り声を上げる野獣に変身することを知る。だがフェイラは、それが自分の本音や民への責任に対する不安を隠すためだと気づき、やがて心惹かれていく。期限付きの大きな呪い、性悪な女王、化け物のカップル、字の読めない19歳の小娘といちゃいちゃするのが趣味という不死身の男。そしてきわどい冗長なセックスシーンはたっぷり4カ所以上と、ニューヨークタイムズ紙のベストセラー小説ランキング入りの条件が揃っている。

Akiko Kato

RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE