レモン・ツイッグスの超ポップソング論 「どこかで聴いたようで唯一無二」なメロディの秘密

ザ・レモン・ツイッグス

ブライアン&マイケル・ダダリオ兄弟=ザ・レモン・ツイッグス(The Lemon Twigs)の快進撃が続く。アコースティック路線でミディアム〜スローの佳曲揃いだった前作『Everything Harmony』(2023年5月)から一転、早くも届いた『A Dream Is All We Know』はパワーポップ色が強まり、風通しの良い痛快なアルバムに仕上がった。

すべてのミュージシャンがレコードオタクである必要はまったくないが、ある程度以上のヘヴィ・リスニングから醸成される個性というのは確実にあるな……と『A Dream Is All We Know』を聴いて痛感させられた。ビーチ・ボーイズのハーモニー、バーズのリフ感覚、初期〜中期のビートルズを彷彿させるメロディなど、過去のレジェンドたちから借りてきた要素が巧みに組み合わされているが、そのレベルで留まらないのがダダリオ兄弟。続くインタビューを読んでもらえばわかる通り、60s〜70sの知る人ぞ知る作品も聴き漁って栄養にした彼らは、“どこかで聴いたような気がするが、未だ聴いたことのないポップソング”を構築する術を本作でいよいよ会得したようだ。単にノスタルジックな音楽と、タイムレスな音楽の違いとは何か……それを熟考せずにいられなくなる、確信に満ちたアルバムを彼らはとうとう作り上げた。

インタビューでは近年の彼らを語る上で無視できない、ダダリオ兄弟がプロデューサーとして関わったチョッチキとユニ・ボーイズ、そしてふたりに多大な影響を与えた父にして現役ミュージシャン、ロニー・ダダリオについても質問。関連作もすべて当たり!な無敵状態の現在について、ブライアンに詳しく語ってもらった。



―素晴らしい新作が聴けてうれしい限りです。日本にはしばらくあなた方の詳しい情報が入ってこなかったので、今日は数年前までさかのぼってあれこれ質問させてくださいね。

ブライアン:OK! ごめん、前のインタビュー中にマイケルのスマホが電源切れになっちゃって。そのうちジョインすると思うけど。(※結局マイケルは現れず)

―前作『Everything Harmony』と新作では制作環境がかなり違うようですね。どんな変化があったんでしょうか?

ブライアン:前作は今回のアルバムよりもだいぶ苦労したね。本来の自分達の家ではない、他所の家みたいな環境でレコーディングしたから。最初の3作はほぼ実家でレコーディングしてて、必要な機材も全部そこに設置してリハーサルもできる環境を作り上げてあった。でも、その後ふたりとも実家を出たこともあって、前作のときはリハーサルの段階から騒音に囲まれた環境で、隣近所の部屋から他のバンドが練習してる音がガンガンに入ってくるような中で曲作りをしていた。しかも曲の大半はアコースティックという最悪の組み合わせだったんでね。それで観念して、初めて本格的なスタジオを借りることになって、前作の大半はサンフランシスコでレコーディングしたんだ。ただ、最終的に作品自体は凄くいいものになったと思ってる。とはいえ、本来の自分達とは違うレコーディング環境で作ったアルバムだったから、前作を作り終えてから即ニューヨークで新しい練習スペース探しを開始して、そこに自分達の機材を搬入して、自分達のためのスタジオを作り上げていったんだ。

―前作が出る少し前に、ブライアンとマイケルがふたりでプロデュースした女性バンド、チョッチキのアルバム『Tchotchke』(2022年)は大傑作でした。レモン・ツイッグスの新作とも通じる簡潔なポップソングへのこだわりがあるように感じたんですが、あのアルバムがどんな風に生まれたのか教えてもらえますか?

ブライアン:ドラマー兼ボーカルのアナスタシア・サンチェスが僕のガールフレンドで、ベース兼キーボードのエヴァ・チェンバースがマイケルのガールフレンドなんだ。で、ふたりとも彼女達の曲が凄く好きだったんで、一緒に1stアルバムを作ることになった。期間にして大体半年ぐらいかな? 間にちょいちょい時間を挟みながら……当時はまだ実家のリハーサル・スペースでレコーディングしていてね。うん、なんかほんとに純粋に楽しかったよ。あのアルバムに参加したことが、レモン・ツイッグスの新作のインスピレーションにもなっていて……簡潔でツボをしっかり押さえてて、楽しくてアップテンポな曲のコレクション、みたいな作品だったからね。僕らは基本的に協力する形で、ちょいちょいオーバーダブを入れたり、ストリングスのアレンジを手伝ったりして。凄くいい感じのコラボレーションだったよ。




―チョッチキのエヴァは、あなた方のアルバムの写真やアートディレクションも担当していますね。新作のジャケット写真もユニークですが、どんなアイディアでああいうアートワークになったんですか?

ブライアン:そう、さっきも言ったように、ベースのエヴァがマイケルのガールフレンドで、彼女がすべてのアートワークを担当してくれている。当然、マイケルも傍でいろいろ意見を言ってたんだろう。今回、アルバムのジャケット写真も彼女が撮ってくれたんだけど、MVの撮影現場に彼女もちょいちょい顔を出してて、そこで写真を撮ってくれてたんだよね。今回のMVのうち2本を自分達ふたりと友人のポール・D・ミラーが監督してるんだけど、ポールが撮影監督も務めてくれる形で、あのMVを撮ったときに撮影した写真が今回のアートワークに使われてたりして。だからアートワークの大元はMVの映像だったり……ただ、さらにその大元になるのはアルバムの曲だったりするからね。とはいえ、アートワークに関してはエヴァのアイディアと発想によるもので、そこにマイケルがああだこうだ意見しつつ(笑)、僕はそこまで深く関わっていない。せいぜい「この色がいいね」って感想を述べるくらい……それもすべて完成した後で(笑)。


エヴァ・チェンバースが手がけた『A Dream Is All We Know』シングル曲のアートワーク

―チョッチキと同じく、あなたとマイケルがプロデュースしたユニ・ボーイズのアルバム、『Buy This Now!』も最高の1枚でした。ユニ・ボーイズのレザ・マティンはレモン・ツイッグスのライブをサポートしていますよね。彼らのことをどう評価していますか?

ブライアン:凄くいい! 最高だと思うよ。一緒に作品を作れたことも本当に良かったし。全12日間っていう限られた工程の中で、レコーディングにあたって周到に準備して来てくれてね。メンバー全員が自分のやるべきことを完璧に心得ていた。僕は何曲かでピアノを弾いたり、基本エンジニア役のマイケルのサポートにまわったよ。何かするというよりも、とにかくこの音楽の魅力をそのまま伝えることにふたりとも注力した。本当に凄くいいバンドだと思うしね。音楽に対する基本姿勢とか哲学に、通じるものを強く感じるというか……ソングライティングや音へのこだわり、耳に心地の良いサウンドを作ろうという発想が僕らと近い。その結果、デジタルよりもアナログが好き、という結論に落ち着いているところもまったく同じ。僕らとは別の観点からロックンロールにアプローチしているはずなのに、何故か凄くウマが合うんだ。お互いに通じ合ってるというか。




―あなたとマイケルは、お父さんのロニー・ダダリオさんの最新アルバム『All Gathered In One Room』にも揃って参加しましたよね。お父さんが作るメロディやアレンジはふたりに強く影響を与えたはずですが、最近のお父さんの作風はレモン・ツイッグスから結構影響を受けていると思いませんか? 親子で影響を与え合っているんでしょうか。

ブライアン:まあ、多少はそういうところがあるんだろうね。父は確実に僕らの作品を聴いてくれてはいる。特に今回の新作は父のどストライク・ゾーンで、もともと60年代ロックの中でもポップ寄りのものに凄く影響を受けてる人だからね。それ以外にもさんざんいろんな音楽を聴いてるけど、とはいえ、父がまだ子供だった9歳とか10歳の頃に夢中になってたのがあの時代の音楽だから。それは僕らにしても同じで、9歳とか10歳の頃に夢中になってたのが、まさにあの辺のポップやロックなんだ。ただし、僕らの場合は父親経由でそういう音楽に出会った形になるけど。普通に父親と一緒に音楽を聴いてたりしてたからね。でも、やっぱりどこかで僕らの音楽から影響を受けてるんじゃないかなあ……父はもう何年もキーボードのベースを使ってたのに、最近は本物のベースを使うようになったし、しかもレッキング・クルーのキャロル・ケイ的な、弦をミュートした活きのいいベースをまた弾き出してさ。それは父親から「お前達のベースがいいんだよなあ」って直接言われたのを覚えてるよ。そこから久々にベースをアンプに繋いでみようって気持ちになったんじゃないかな。そういう細々したところで、レモン・ツイッグスから影響は受けてるはずだよ。




─ちなみに、すでにお父さんの新作が完成間近で、マック・デマルコやトッド・ラングレンが参加しているという噂は本当ですか?

ブライアン:うん、それは本当。

─それは気になりますね。どんな感じに仕上がっているんでしょう?

ブライアン:凄くいいよ。プロセス自体はだいぶ変わっていて、父親と僕らとでかれこれ5、6年かけて取り組んでいる。その過程で徐々に外部から、それこそマック・デマルコが参加してくれたりね。それでマック仕様に原曲のスタイルを少し変えたりして。そういうアルバム作りのプロセス自体が、いい感じだった。父親がすでに録音してアレンジも準備周到に済ませた曲を、僕らが好みの音で録音し直したみたいな感じで。たとえば、父親がもともとキーボードのドラムなんかを使ってアレンジしたものを、僕らが本物のドラムに置き換えていったんだけど、アレンジに関してはあくまでも父親が最初に作ってきたものをそのまんま残す形でね。だから違う意味での挑戦ではあった。というのも、普段なら自分のパートを作りながら曲を作ってるところを、一から曲を習って父親が演奏してる通りに再現するっていうことをしていったわけだから。でも、今回は自分達がパートで貢献することはそれほど多くなくて、というのも元のアレンジメントが凄く良くできていた。

そのアルバムにはトッド・ラングレンも参加して、素晴らしい歌声を披露してくれた。ショーン・レノンもボーカルで参加してくれてるんだ。だから徐々に形になりつつあって、今最終のミックス段階に入ってるところ。とはいえ、僕らはプロデュース担当として必要な人に声をかけたり、調整作業を担当してるだけで、紛れもない“ロニー・ダダリオの作品”になってるよ。


トッド・ラングレンとレモン・ツイッグス、2017年のコーチェラにて撮影(Photo by Rich Fury/Getty Images for Coachella)

─トッド・ラングレンとはお互いのアルバムに参加したり、コーチェラ・フェスで共演したりと交流が続いてますね。実際に接したトッドの人柄はどんな感じでしたか?

ブライアン:凄くファニーで面白い人だよ。自分なりの意見を持っていて、それを言葉にしてきちんと表現できる人で、パフォーマンスに対しても真剣でね。こちらから何か話しかけると凄く丁寧に受け答えしてくれて、しかも話が凄く要領を得ているんだ。なんかこう、全体的に話しやすいタイプだよ。こちらからいろいろ投げかけた質問に対して、自分なりのプロダクション・メソッドを交えながら語ってくれたりして、思わず聞き入ってしまう。彼と共演する貴重な機会が訪れたときには、トッドの仕事ぶりからできるだけ貪欲に、多くのものを吸収しようとしてる。毎回凄く楽しい、良い経験をさせてもらってるよ。

Translated by Ayako Takezawa

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