これほどスローなのは、ある意味で衝撃的である。スローなテンポ、ガーゼのような上品な雰囲気のなかでゆったりと揺れるビート、そして夢にまどろむような声を持つドレイクのラップ(驚くべきことに、時に歌う)。『サンク・ミー・レイター』は、ドレイクが自身のオフィシャルなデビューを静かに伝える作品だ。数年前までイメージすることさえできなかったヒップホップ・スタイル。今やドレイクがそのスタイルをリードする。ドレイクは繊細でどこか痛ましく、情緒的で、そして何よりも率直だ。生まれつきのカリスマ的なMCというわけではないが、巧みなイメージとオチで曲をまとめ、弾みを付ける(「アンフォーゲッタブル)。ヒップホップ界で、最も機知に富んだひとりである。ジェイ・Z、 ヤング・ジージー、 T.I.、リル・ウェインに匹敵すると言っても過言ではないだろう。ビートの多くはカナダ人プロデューサーによるもので、カニエ・ウェストの『808's & ハートブレイク』やキッド・カディの『マン・オン・ザ・ムーン:ザ・エンド・オブ・ザ・デイ』を思い起こさせる。本作のトーンは時代を象徴するものとして、非常に読み取りやすい。こういった流れは不況を反映したものなのだろうか? それともヒップホップのサウンドが中年期に差しかかろうとしているのか? 何はともあれ、情熱的な作風が、このアルバムに首尾一貫した感情をもたらしている。それはアルバムを最初から最後まで通して聴く——ということを意図しているのだろう。最近の音楽シーンのなかで、期待度は群を抜いている。

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