これはマイケル・ジャクソンのアルバムではない。
 ジャクソンはポップ界で最も口うるさい人物のひとりで、たとえ楽曲が不完全でも、そのプロダクションにはどこか純真さがあった。もしも本人が生きていたとしたら、レーベルによって編纂された、こんなアウトテイクやアウトラインの寄せ集めのようなコンピレーションを、決してリリースしようとしなかっただろう。
 それでも『マイケル』が人々の心を掴むことができるのは、この男のカリスマの証明である。彼は10曲中8曲に作曲者としてクレジットされており、それはすぐにマイケル・ジャクソンの曲だとわかるものだ。
 獰猛なほどファンキーな「ビハインド・ザ・マスク」は「ワナ・ビー・スターティン・サムシン」の従兄弟のようであり、レニー・クラヴィッツがプロデュースした「(アイ・キャント・メイク・イット・)アナザー・デイ」は、クラヴィッツ本人のギターもフィーチャーした、「ダーティー・ダイアナ」風のダンス・ロック・ソングだ。「(アイ・ライク・)ザ・ウェイ・ユー・ラヴ・ミー」に彼が注いだ、歌とビートボックスのアイデアの断片からは、ゾクゾクするようなMJの創作の過程を垣間見ることができる。
 しかし『マイケル』の最も驚くべき瞬間は、『スリラー』の頃のようなバラード「マッチ・トゥー・スーン」だ。この曲はギターとストリングスで溢れているが、本当に耳に入ってくるのは、子供と大人、男性と女性、悲しみと恍惚の間でさ迷う、その歌声なのだ。

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