映画『グッド・ウィル・ハンテング~旅立ち』(98年)の主題歌「ミス・ミザリー」で人気を集めたシンガー・ソング・ライター、エリオット・スミス。彼は03年10月21日、34歳の若さでこの世を去った。はっきりと死因は断定されていないが、彼を死へ至らしめた“胸の傷”は、検死官の報告によると、明らかに自らがナイフで突き刺したものだったという。その悲劇的な死のせいもあり、彼が残した音楽を改めて聴き直すのは、とてもツライ。死後に発表されたアルバム『フロム・ア・ベースメント・オブ・ザ・ヒル』(04年)は、スミスが最期の数年間取り組んでいた楽曲を集めたものだった。それを聴いた多くの人は、ドラッグとうつの影響でどん底の精神状態にいたスミスの姿を、想像しないわけにはいかなかったはずだ。 だが、今回リリースされた2枚組アルバム『ニュー・ムーン』は、同世代のシンガー・ソング・ライターの中でも卓越した才能の持ち主だったスミスの“真の遺産”が再評価されるきっかけとなるだろう。ここには、彼が94~97年にレコーデングした計24曲の未発表曲が収められている。(「ミス・ミザリー」のデモ・ヴァージョンも収録)。録音時期的には『Elliott Smith』(95年)や『Either/Or』(97年)といった、彼のソング・ライティングが最も充実していたころの作品群と重なる。ほとんどの曲はアコースティック・ギターと繊細なヴォーカルだけで演奏されているが、キャリアの後半に開花した、豪華絢爛なバロック・ポップ調サウンドの片鱗もきくことができる。「オール クリーンド・アウト」、「ニュー・ディザスター」、「トーキング・トゥ・メアリー」、「ゴーイング・ノーウェア」は、スミスが生前にリリースした5枚のオリジナル・アルバムに収録されなかったのが不思議なくらい、心に染みる珠玉の名曲。アルバム全体としても、最高傑作『Either/XO』(98年)に匹敵するレベルの必聴ディスクと言える。

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