マックルモア&ライアン・ルイスと共演、伝説のラッパー3人が語る過去、現在、未来

─後輩アーティストたちの曲を真剣に聞くのをやめたのは、いつぐらいのころ?

カズ:俺の場合は、ジェイZやビギー、ナズのころが最後かな。俺たちは、MCがリリシストだった時代のラッパーだ。モー・ディーはもう少し広い考え方をもっているかもしれないが、俺は純粋主義者。俺にとってビートは関係ない。どんなビートであっても、俺が聴いているのは歌詞の内容だ。

メリー・メル:俺は、パブリック・エナミーが最後だったと思う。パブリック・エナミーのすぐ後にN.W.A.が出てきて、その後はクリエイティヴィティという点では、すべてが衰退していった。ほとんどがギャングスタ・ラップだったから。

クール・モー・ディー:確認しとくが、これはメリー・メルの言葉だぜ。

カズ:間違いなくメリー・メルだ。

─The Rakeの『Street Justice』やSchoolly Dなど、あなた方の時代にもギャングスタ・ラップはあった。

メリー・メル:Schoolly Dでも、そこにはまだいくらかのクリエイティヴィティがあった。なぜって、当時は最高のレコードが作り出されていた時代だ。

ギャングスタ・ラップが売れ始めてからは、レコードと一緒にイメージを売る時代になった。ギャングスタというイメージを。だからクリエイティヴである必要はなく、ただイメージさえあればよかった。クリエイティヴィティが衰退したと言ったのは、そういう理由からだ。

今だって、ヒップホップをやっているとされる奴らの大半が、いいラッパーとは言えない。彼らは多くの場合、自分はラッパーだと主張することもない。ただストリートにいたのに、たまたまレコードをリリースすることになった、というような雰囲気で、その「ストリートっぽさ」を人々にアピールする。でもそこにクリエイティヴィティはない。今のやつらは、俺たちの全盛期にあったようなクリエイティヴィティをほしいとも思っていないだろう。」

─「Grandmaster Flash & the Furious Five」にイメージがなかったとは言えないのでは?

メリー・メル:俺たちのイメージはロックンロールだった。俺たちはフッド(ゲットー)の出で、そのフッドのイメージを払拭するために、ロックスターになろうとしていた。でも今の奴らはフッドの出で、そのイメージをもっと定着させようとしている。「俺たちはフッドで生まれ、貧しく育ち、何も持ってなかったけど、これからカネを手に入れてやる」っていうタフガイのイメージだ。誰もがそうというわけではないが、多かれ少なかれ、それが今の時代のヒップホップを物語っているだろう。


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メリー・メル/1982年 (Michael Ochs Archives/Getty)

─N.W.A.の伝記映画『ストレイト・アウタ・コンプトン』をまだ観ていないとか。(※インタヴューは2015年)

メリー・メル:そうなんだ。絶対に観に行こうと思っているが、世の中の高揚した雰囲気に乗っかるのが嫌だから、少し波が引くのを待とうと思っている。劇場でその場の雰囲気にのまれたという理由で、N.W.A.について涙したくないだろ(笑)。

カズ:俺は観たよ。俺はあの時代をその場で見ていたから、映画はかなり正確だと思った。当時ハリウッドには大きなクラブが2つあった。アフリカ・イスラムがアイス-Tとツアーに出たとき、俺は89年から92年までそのクラブでDJをやっていた。俺たちは、(ロス暴動のきっかけとなった)ロドニー・キングが警官に暴行された事件を見ていた。その週に、イージー(・E)たちがみんな俺たちのクラブに来た。The D.O.C.やアイス・キューブや、みんなだ。だから俺たちは、東海岸にいてそれまでN.W.A.のことを知らなかった人たちと違い、彼らの成長を間近で見ていたといえる。
内容は正確だったと思うし、(アイス・キューブの)息子はすごい演技力を見せた。ドクター・ドレーはちょっと美化されて、実際より少しタフに描かれていたと思う。

─ラップによるビーフ(けんか)の先人として、ミーク・ミルとドレイクの戦いをどう見ている?

クール・モー・ディー:ドレイクは俺の好きなアーティストの1人だから、客観的には見れないな。ミーク・ミルが嫌いという意味ではない。

俺が思うに、ミークが犯している間違いは、ヒップホップの枠内で戦っていないことだ。「クール」や「サグ」(といったギャングスタ精神)から抜け出せないでいる。ビーフをやるならヒップヒップの戦いの場でやらないといけない。「おまえを殺してやる、おまえを撃ってやる」とかではダメだ。戦いにはユーモアがないといけない。「おまえを撃ち殺してやる」とかではなくて、「おまえの見た目、おまえの行動について語ってやる」という戦い方でないと。

ミーク・ミルもそれができたとは思うが、彼の取り巻きのせいなのか何らかの理由で、そういったヒップホップの観点からのアプローチができていない。俺にとっては、それが一番大きな間違いに見える。
どっちが勝っているかって? 俺の意見はない。ヒップホップの枠から外に出た時点で、その戦いは俺にとってどうでもいいことになっている。」

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クール・モー・ディー(Michael Ochs Archives/Getty)

─かつてビーフを繰り広げたLL・クール・Jに最後に会ったのはいつ?

クール・モー・ディー :(一時代を築いたラッパーの功績をたたえるケーブル局VH1のイベント)「Hip-Hop Honors」でだ。確か2008年だったと思う。信じないかもしれないが、俺たちはバトルをしていても、ブラザーであり続けた。それが俺たちの時代の特徴だ。
個人攻撃だととらえて根にもっていても、大人になるにつれて、なんてばかなことをしていたんだと気づき、親友のような絆が生まれる。」

─『Downtown』は現在(インタビューが行われた15年9月時点)、ビルボード・ホット100で18位だ。メリー・メル、あなたの曲が最後にチャート入りしたのは1984年だったけど、返り咲いた今の気持ちは?

メリー・メル:最高の気分だし、ありがたいことだと思う。俺は続けられる限り、ヒップホップをやってきた。ヒップホップが好きだからだ。それを、より大きなステージでやれることに興奮している。俺は戻ってきた。20代の頃の俺だ。ファンには、これからの俺を、もっと楽しみにしていてほしい。

クール・モー・ディー:俺は『ワイルド・ワイルド・ウエスト』で(ビルボードR&Bチャート)4位だったからな。

─ウィル・スミスがサンプリングしたバージョンは、ナンバー1を獲得した!

クール・モー・ディー:そうだ、そうだ。俺はチャート上位の味をよく知っている(笑)。

カズ:1回もチャート入りしたことがない俺から言わせてもらいたい。ヒットした曲もアルバムもない俺にとって、これは新しい経験だ。
人々は俺のことを、その名前が有名だから認識している。ラキームやウィル・スミス、ランDMCらが俺について語るから、俺は世間に知られている。でも俺には代表作がない。だから俺にとって、このチャート入りは新しい経験だし、最高の気分だ。」

Translation by Nao Nakamura

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