ルー・リード、最後の声明:ソロ・アルバムのリマスター制作秘話

ボックスセットのリリースは、ボブ・ディランの『ブートレッグ・シリーズ』のように、レア音源やアウトテイクを集めるプロジェクトの前哨戦と言えるかもしれない。リードのアーカイヴにはデモ音源やアルバム未収録曲が豊富にある。まずは、リリースしていないライヴ音源だろうか。サントスによると『ロックン・ロール・アニマル』となった73年のライヴにはまだ音源があるという話があるそうだ。また『テイク・ノー・プリズナーズ・ライヴ』用として、レーベルがたくさんライヴを録音したとも。

ボックスセットには、ライヴアルバムが2枚ほど収録されていない。というのもリードがその2枚を本作にふさわしくないと考えたからだ。今は亡きギタリスト、ロバート・クインとのツアーの模様を収録した84年の『ライヴ・イン・イタリー』、レーベルが金稼ぎのために作った75年の『ルー・リード・ライブ ~NY,アカデミー・オブ・ミュージックに於ける実況盤』がそれだ。

『LOU REED - THE RCA & ARISTA ALBUM COLLECTION』は、リードの最後の声明のようにも思える。ウィルナーはリマスターの最後の日のことを覚えている。彼らは作業後、ラジオ番組『ニューヨーク・シャッフル』収録のため、シリウススタジオへと向かった。「番組では絶対にルーの曲は流さなかった」とウィルナー。しかし、ボックスセットのレコーディングを終えたその日、番組のゲストとして『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』に出演している女優、ナターシャ・リオンが来ており、リオンがリードの音楽をかけてはと提案した(彼女はリードの大ファンで、リードは『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』の大ファンだった)。「ルーが言いだしたんだ、"俺が生きてるうちにこんなことをしようとするなんて、信じられないよ"って」。リオンがその時のことを回想する。「私の人生で、もっとも辛い瞬間だったわ」

「あれは信じられないくらい感情をゆさぶられた午後だった」。悲しそうに、ウィルナーが付け加える。「あんなにも生きることを望んだ人間は後にも先にもいなかった」



Translation by Shinjiro Fujita

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