米帰還兵たちがプロレスを通してPTSDと向き合う理由

リングに立つエディ・スコット(Photo by Rolling Stone)



エディは2011年の帰還後、プロレス活動にある安らぎを見出した。彼はハードなトレーニングを通じて吐き出すべきものを吐き出し、他の選手たちとのきちんとした試合活動で自分の調子を整えることができた。またそこでこそ、彼は共に「ヴァルハラ・クラブ」を構成する他の2人、ジャン・オーストロムとジョン・ブレイザーとも出会うことができたのだ。この「ヴァルハラ・クラブ」はテキサスを拠点とする帰還兵団体で、セラピーとして身体活動を用いて、PTSDに苦しむ帰還兵たちに働きかけ、語りかけている。彼らは帰還兵たちのネガティブなエネルギーを何とか少しでも――プロレスであれ、瞑想でも絵画でもランニングでも――まともな方向に向ける道を、助ける道を模索しているのだ。

「何をするにせよ、何らかのけ口が必要だ」と30歳になるブレイザーはローリングストーンに語ってくれた。ブレイザーは“Mr.Stud(驚異の鋲男)tacular”・ブライジン・スコットなる、リングの中でやっと自信と正気を取り戻すというキャラを担っている。自分を保つための“鋲”とはもちろんギミックだが、一面でブレイザーの背後にある、かつての自分の姿でもある。かつては花火など気にも留めなかった男。ドアに背など向けることなどなかった男。携帯メールの着信バイブ音になど怯えもしなかった男。そう、かつては。「僕は他の誰かになりきらないと周りから逃げ出してしまいそうになるんだ」と彼は言う。「演じることで楽になるよ」


ブライジン・スコット(Photo by Rolling  Stone)

36歳でクリス・ジェリコばりのロックスターキャラを演じるのは、オーストロムだ。彼もエディも観衆の前に立つと重度の不安を感じるタイプだ。彼らに言わせると、観客の前での試合は一種の所謂「セラピー」なのだ。「リングを囲む群集の中にいるとき、視線は全部こっちに集まってくる」とエディは言う。「(試合では)関心の中心だ。つまり、みんなが俺を見ている状況そのものだ。そしてそういった公の場で自分の不安と向き合っている。内にこもるのはまずい。外に向かっていかなきゃね。あえて自分にとって不快な場に身を置く。そうするといろいろ改善される」

エディもオーストロムもブレイザーもそして無数の帰還兵たちはみんな、いろいろな意味で排除されているという感覚を抱いている。これには3人とも口を揃えている。帰還兵の見てきたことなど誰も理解しようとしない。さらに他の帰還兵たちも様々な問題を抱えてきた。そしてオーストロムは言う。米軍がそのPTSD患者に対処するやり方には「落ち込まされるばかりだ」と。「先方はこっちを押しのけるばかりなんだ」とオーストロムは語る。「あっちはたくさんの人々を排除してきた。そのせいで帰還兵の自殺が蔓延している。だって何のめども立たないままに放ったらかしにするんだからね」と。

2016年実施のアメリカ地域社会調査によると米国内で暮らす帰還兵の数はおよそ1850万人である。退役軍人省の試算では帰還兵の自殺を図る率は他の米国民より22%高いのだ。2012年の退役軍人省の報告では毎日22名の帰還兵たちが自殺を図っている。さらにその人数は実際にはもっと多いのではという意見もある。PTSD治療の権威、コロンビア大学のジョン・マーコウィッツ博士が説明してくれた。「これは甚大な問題です。300万人近い中東方面からの帰還兵のみにとどまるものではありません。どの戦争からの帰還兵においても自殺のリスクは高まるのです」

Translated by LIVING YELLOW

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