ヨ・ラ・テンゴの運命を変えたターニングポイント「パンクロックは誰にでもできるものではなかった」

ー昨晩のコンサートに話を戻すと、第二部はぐっとアグレッシブになり、ギターの演奏もパンクロックを感じさせるものになりました。それに対して、第一部でのあなたは、ギターをとてもソフトに弾いていましたよね。僕は貴方のソフトな弾き方が大好きです。昨夜も完璧なサウンドだと思いました。アグレッシブに弾くよりもずっと難しいと思います。

アイラ:日本で演奏するにあたって良い点の一つは、観客が非常に静かで、音楽に集中してくれることだと思う。昨夜も第一部の途中、客席の誰かが咳をしたのが地震のように響いたよ(笑)。

ーサン・ラー・アーケストラと共演しているのをYouTubeで見たのですが、昨年と一昨年のものだったかな。


アイラ:共演はこれまでに何度もしているよ。

ー僕もサン・ラーが大好きなんですが、実はあなた達のカバーバージョンを聴いて、サン・ラーを再発見しました。サン・ラーとヨ・ラ・テンゴはそんなに変わらないんだと気づいんたんです。彼は優れたポップソングやダンスソングを作っているし、それらをシングルとして発表している。あなたにとってサン・ラーはどのような存在ですか?

アイラ:サン・ラーは、僕たちが尊敬しているアーティストの多くと同様、独自の世界観を創り出している。コズミック・レイズのプロデュースを手がけて作曲しているサン・ラーもそうだし、ヨハナンの演奏を担当しているサン・ラーもそうだし、アーケストラが演奏するディズニー曲もそう。それらには彼らの世界観がにじみ出ている。彼らの世界観はすごく確立されていて、僕はそれにインスピレーションを受ける。

昨夜演奏した二つのセットは、自分たちにとってはそんなに違いを感じないんだよ。どちらもバンドの違う一面で、僕らがどんな人間であるのかを違った形で表現しているに過ぎない。ステージに立ち、自分の正直な姿を見せれば、自分の姿というものは浮かび上がってくるのだ、ということを今では信じることができる。サン・ラーもそれを体現していたんたんだ。

他にも、ニュージーランドのザ・クリーンという素晴らしいバンドがいるんだけど、彼らも魔法にかかったような気分にさせてくれる。僕らの友人がやっている無名のバンド、アンティータムもそう。実は一緒に来日する予定だったけど、体調を崩して来れなくなってしまった。彼らの曲「Naples」をアコースティックでカバーしたこともある。サン・ラーも含めて、そういった人たちが創り出す世界観はとても感動的だ。


サン・ラー「Somebody’s in Love」のカバー。今回の名古屋公演で披露された。

ーカバーといえば、昨夜のアンコールではトッド・ラングレンの「I Saw the Light」を披露していましたが、その前の大阪や名古屋の公演では別の曲をカバーしていたようですね。カバーを日替わりで行うのは、自分たちが楽しいから、観客が楽しみやすいからというのは一つ考えられるとして、それ以外にも理由があるのでしょうか?

アイラ:楽しいから、というのが十分な理由だと思うけど(笑)。僕らは自分自身もライブに行きたいと思えるバンドでありたい。今回のツアーにも、各地の公演に来てくれる人たちがいる。そういうのは本当に感動するんだ。でも、そこで僕たちが同じ22曲を毎晩演奏し続けたら、彼らは他の公演にも来てくれるだろうか? そう思って、セットリストはいつも物凄く変えているんだ。昨夜はトッド・ラングレンの前に、ドリーム・シンジケートの曲(「Halloween」)をやったけど、あの曲を演奏したのは10年振りくらいだね。そうやってランダムに選んでいる。僕たちのライブに来る人には、たとえ毎晩通ったとしても、いつだって初めてヨ・ラ・テンゴが演奏する曲を聴いてもらいたいんだ。僕たちもそのほうがワクワクするしね。

僕は今日、“自信”について何度か言及してきたと思うけど、自分たちの音楽で実践してきたことのほとんどを、最初はカバーを演奏することで学んできた。ギターソロを初めて演奏したのもカバーだったし、ファズボックスを踏んだのも、大声で歌ったのも、歌うということ自体も、すべてカバーが始まりだった。僕たちにとっては、カバーをやることが、新たな試みをするための手段だった。まるでコスチュームを最初に試着して、それを着た自分に慣れてきて、それがやがて自分の一部となるといったような。そういう理由もあるけれど、一番は楽しいからだよ。

ーじゃあ、最後の質問です。最近の若いミュージシャンは音楽学校の出身者が多いですよね。あなたやバンドメンバーは特別な音楽教育は受けないですよね。

アイラ:受けてないよ。

ー音楽教育を受けることについて、あるいは独学で学ぶことについては、どんな意見を持っていますか?

アイラ:「これが良い」とか「これは悪い」ということは言わないようにしている。今回の新作みたいに、「僕たちはテープも使わず、アナログ機材も一切使わないアルバムを作る」と何年も前の僕が聞いたら、「そのアルバムは酷いものになるだろう。それはやめたほうがいい」と言い出したかもしれない。でも今思うのは、何かをするときにはいつでも、たくさんのメリットがあるし、同様にデメリットも存在するということ。(ロックにとって)音楽学校は評判が悪いけど、それがなぜかは理解できる。僕だって知識がありすぎる人たちをバカにしたことがあるからね。でも、性格がいいほうの僕が思うのは、正しい使い方ができるツールでもあるし、逆もまた然りということかな。

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