クイーン最大のヒット作『世界に捧ぐ』あなたが知らない10のこと

6. 「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のストンピング&クラッピングのパートには、ブライアン・メイが培った物理学の知識が反映されている

ロックスターになる前、ブライアン・メイはロンドンのインペリアル・カレッジで数学と物理学を専攻しており、1968年に後者の分野で理学士号を取得している。2010年に行われたNPRのテリー・グロスとのインタビューによると、「ウィ・ウィル・ロック・ユー」のリズムトラックには、彼のそういったバックグラウンドが活かされているという。「あの曲のレコーディングにはロンドン北部にある教会を使った。音響がすごく良かったからね」彼はそう話している。「古い板がたくさん置いてあって、それを踏みつけるといい音がするんじゃないかと思ったんだ。それを全部床に並べて実際にやってみたところ、なかなかいい音が録れた。でもその時、俺の物理学者としての勘が働いたんだ。1000人でこれをやったら、ものすごいことになるんじゃないかってね。ストンピングが生む残響音についても、数学的な計算に基づいて考えた。結果的に、複数のテイクを活用することにしたんだ。教会のナチュラルなエコーには頼らず、マイクを置く位置を変えて録音した複数のテイクを重ねることにした。一番肝心なのは、音の発生場所からマイクまでの距離だった。各テイクが被って聞こえないように、それぞれ異なる長さのディレイをかけた。だからストンピングのパートには、教会のエコー音はほとんど混じってないんだよ。ステレオで鳴ってるクラッピングについても、広がって聞こえるように計算した上でマイクの設置場所を決めた。ストンピングとクラッピングを繰り返す、大勢の人間に囲まれているような感覚を狙ったんだよ。

7.「オール・デッド」の誕生には、ブライアン・メイの飼い猫の死が関係している

ブライアン・メイがヴォーカルを担当したメランコリックな「オール・デッド」は、愛する恋人を失った悲しみを感じさせるが、実際にはメイが子供の頃に飼っていた猫の死が関係している。「あの曲は随分前からあったんだ」メイはIn the Studio with Redbeard出演時にそう語っている。「元々は友人の死についての曲だったんだけど、なぜか昔飼ってた猫のことを思い出したんだ。その猫が死んだ時、幼かった俺はその事実となかなか向き合うことができなかった。子供の頃に経験したそういう思いは、大人になってからもふとした時に脳裏をよぎるんだよ。あの曲をアルバムに収録することになって、改めて取り組み始めた時はまったく別のことを考えてたはずなんだけど、あの時に感じたものが無意識のうちに表面に現れたんだ」

8. 「うつろな人生(原題:Sleeping on the Sidewalk)」はクイーンのディスコグラフィーにおいて、一発録りでレコーディングされた唯一の曲である

多重録音をはじめ、クイーンは様々な編集テクニックを駆使したことで知られるが、『世界に捧ぐ』は10週間という、バンドにとっては異例ともいえる速さで完成させている(『華麗なるレース』の制作には5ヶ月を費やしている)。11月頭に控えていた6週間に及ぶアメリカツアーに間に合わせるという課題があったがゆえの結果だったものの、メンバーの大半はかつてなく直感的でスピーディーな作業に満足していたという。『世界に捧ぐ』(あるいはクイーンの全作品)において最も直感的な曲といえるスペーシーなブルースシャッフル「うつろな人生」のバッキングトラックは、メイとロジャー・テイラー、そしてベーシストのジョン・ディーコンの3人がシングルテイクで録っている。

「素材をぶった切って並べ替えるっていう作業もやったけど、基本的には1発で録音したテイクをほぼそのまま使った」メイは1983年にBBC Radio Oneでそう語っている。「ルーズな感じがすごく曲にフィットしてたからね。俺たちの過去の作品にはない要素だったから新鮮だったよ。それまでは完全に納得がいくまで、リズムトラックの隅々にまで手を加えてたからさ。別々のテイクを編集でつなぎ合わせたこともあった。そういうテクニックを駆使するのもいいけど、このアルバムでは直感的な部分を残そうとしたんだ」

Translated by Masaaki Yoshida

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