音楽評論家・田中宗一郎が語る、「記憶喪失の年=2018年」にアール・スウェットシャツのアルバムが断トツだった理由

アール・スウェットシャツ(Photo by Scott Dudelson/Getty Images)

音楽評論家・田中宗一郎と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が旬な音楽の話題を縦横無尽に語りまくる、音楽カルチャー誌「Rolling Stone Japan」の人気連載「POP RULES THE WORLD」。2018年12月発売号の対談では、田中が「2018年後半で断トツに良かったアルバム」としてアール・スウェットシャツの『Some Rap Songs』を挙げ、その理由を解説している。

田中は「SNSが一般化して以降、何かしらのトピックが瞬間的な爆発を見せて、1週間後にはすべて忘却されてしまう。そういう傾向が加速してて、さらに歴史や過去を顧みなくさせてる」という2018年を「歴史に対する記憶喪失の年」と位置付けた上で、『Some Rap Songs』の素晴らしさについてこのように語っている。

田中:アール・スウェットシャツがよかったのは、ここ数年のマンブル・ラップ、エモ・ラップ、スクリーム・ラップっていう一連の騒ぎがなかったようなレコードを作ったこと。だからと言って、ここ数年間に起こったことに目をつぶっているわけじゃない。それも踏まえた上で、「いや、自分たちはもっと長い10年、20年、100年と綿々と続いている歴史の流れの中にいるんだ」っていうことを提示したレコードだと思う。

宇野:うん。そういう最近の流行に乗っかったところが一切ない作品でしたね。

田中:どのビートもすっごくドープな1ループで、フックなんかない。ヴァースだけ。『ピッチフォーク』は彼のアルバムを「アヴァンギャルド・ジャズとヒップホップの融合」って書いてるんだけど、もっと広いスパンでのブラック・ミュージックやアフロ・アメリカンのカルチャーからの引用がある。彼の父親はケラペトセ・クゴシトシルっていう南アフリカの有名な詩人なんだけど、その父親が今年亡くなったことにも触発されたレコードで。アルバムの最後の曲は、以前もやってたんだけど、南アフリカの有名なジャズ・トランペッターであるヒュー・マセケラのサンプリングをしてたり。ある意味、アフロ・アメリカンの歴史に意識的に繋がろうとしたケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』(2015年)から地続きで、その間に起こったことがないようなレコードだった。しかも、このアルバム、とにかくギターの音色が最高なんだよね。まあ、決して爆発的に売れるようなレコードじゃないけど。



その後、本誌での2人の会話は、アール・スウェットシャツと同じくオッド・フューチャーのメンバーだったタイラー・ザ・クリエイターの話題へと続き、彼が2018年にリリースした曲やその言動からも「時代の大きな変節を感じざるをえない」と分析している。

Edit by The Sign Magazine



田中宗一郎と宇野維正の2018年の年間ベスト・アルバム/ベスト・ソングのSpotifyプレイリストはこちら。







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