モモコグミカンパニーの居残り人生教室「会社員からレコードバーのマスターへ転身した理由」

モモコ:サラリーマンとしての経験、店主(もしくは経営者、オーナー)としての経験を持つ伊藤さんから20代の子たちにアドバイスを送るとしたら?

伊藤:一生懸命やるってことですね。でも最初は何を一生懸命やるのか分からないだろうから、それを見つけるのが大事になってくる。で、見つけるために何をするかといったら動くこと。部屋の中にいても何も見つからないわけですよ。そうやって動いた結果、モモコさんだってオーディションを受けてBiSHになれたんだし。

モモコ:私も学生時代は本ばっかり読んでいて、それで世の中わかった気になってたんです。でもBiSHで外の世界に出てみてから、自分が何もできないことに気づいて……。本や映画でインプットするのも大切なことだけど、自分の足で歩かなきゃダメだなと。

伊藤:だからモモコさんが喫茶店めぐりが好きっていうのは、とてもいいことだと思うよ。実際に足を運ぶことで「素敵なお店を見つける自分」を作っていくんだよね。自分のお店が渋谷にあるからっていうのもあるけど、例えばハロウィンの時に何も考えずに街に群れて繰り出すとかじゃなくて、ちゃんと何をしたいか自分で考えて実践してみることが大事かなって。

モモコ:なるほど。

伊藤:群れるのはいいんだけど、それだったら自分の街で自分たちで何かやってみたらいいと思う。例えば、多くの地方都市でも若者がいなくて困ってる街があるじゃない。そういう場所、自分の街で友達と一緒に何かやってみるのも一つの生き方だよね。元渋谷の「ギャル」だった方が、ある地方都市の活性化で活躍しているっていう話も聞いたことがあるし。そうしたことって素敵だなと思いますよ。

モモコ:とにかく何かやってみるってことですね。

伊藤:失敗してもいいんです。失敗したら何が足りなかったんだろうと考えて、次に向けて動けばいい。サラリーマンもそうです。一つの筋をきちんと自分の中で立てていかないと、会社の中で生きていけないですから。ただ会社にぶら下がってることに安心を感じて、とりあえずオフィスに出勤しておけば行けばいいやぐらいなスタンスで仕事をすることほどつまらないことはないです。うちでバイトしてた若い子も「せっかく会社に入ったのに全然やりたいことをさせてもらえない」って言ったりしていた人もいましたが、それは当たり前ですよ。まだ何もできないんだから。小規模の会社だったら別ですけど、そこそこの規模の会社でやりたいことをやるためには、いろいろ知る必要がある。入社後の数年間はそれらを学ぶための時間なので、その中で努力をしなくちゃいけない。そもそも「本当にやりたいこと」って皆がやりたいことだから競争率は当然高いですからね。逆に会社を飛び出して靴のデザイナーになると言って独立して、この店で働きたいと自分から言ってきたバイトの子もいます。苦労してますが、本当に充実しているように見えますよ。そうした人にはできる限り力になってあげたいなと。

モモコ:経営者としての目線で考えた時、もっとお客さんを増やそうとか考えたりすることもあると思うんですけど、その際、サラリーマン時代に身につけた知識とかが活きたりしますか?

伊藤:ありますね。本社にいた時に広告代理店の方ともお付き合いがあったし、今もお客様で代理店の方は多いんですけど、やっぱりWEBで宣伝を打つのは一つの手ですよね。自分の中で「週に2〜3組新規のお客様が来てくれる」というハードルを設けてた時期があって色々やってみました。逆にあえてやらないこともあります。それと、人は人につくということを、営業の仕事を通じて体感しましたよ。お店でも同じですね。あと外国の方が口コミですごくいい評価をしてくれて。それから観光客の方も増えましたね。

モモコ:海外の方も来られるんですね。

伊藤:しかもウチは「チャージがかかるよ」って店の外に看板をかけてるので、騒ぐのが好きな人たちというよりは、本当に紳士淑女なお客様が多いです。音楽とお酒を愛してくれて。この間、お礼の手紙がニューヨークから届きましたけど、そういうのがやっぱり一番うれしいですよね。ファンレターって貰った時ってこういう気持ちになるんだなと(笑)。

モモコ:(笑)私もBiSHにいるとファンの方からよく貰います。

伊藤:思わずファンレターを書きたくなるような、そういうお店になるといいなって。ちなみに僕と妻で今一番ハマってるのはフラ印のポテトチップスなんですけど、あまりにも美味くてファンレター書きたいですもん(笑)。



左からrecord bar 33 1/3rpmのマスター伊藤氏、モモコグミカンパニー(BiSH)(Photo by Takuro Ueno)

=あとがき=

自分の身体は常に一つ。自分の軸は常に一本。数えきれないほどの選択肢、画面の奥にはたくさんの情報がはびこる中で、一番信用できるのは自分の身体で感じたこと。口コミを見て満足しないで、自分の足で歩いてみることが大切、もっと自分の感性を信用しよう。伊藤さんのお話を聞いてこう思った。

歩くのをやめない限り、全ての経験は自分にとって無駄にならない。こう思っておけば何事も頑張れるし、強くなれる気がします。でも、がんばり過ぎたら少しゆっくりしましょうね。渋谷のレコードバーでゆっくり音楽と美味しいお酒に浸るのもありかもしれません。

Edited by Takuro Ueno(Rolling Stone Japan)


モモコグミカンパニー(BiSH)
https://twitter.com/gumi_bish
2015年3月、BiSHのメンバーとして活動を開始。2016年5月のシングル「DEADMAN」で早くもメジャーデビュー。2017年7月に幕張メッセイベントホールで行われたワンマンライブ「BiSH NEVERMiND TOUR RELOADED THE FiNAL “REVOLUTiONS”」をSOLD OUT。12月には、結成からわずか3年で『ミュージックステーション』に出演し、“楽器を持たないパンクバンド”として強烈な個性を見せつける。その間、『KiLLER BiSH』と『THE GUERRiLLA BiSH』の2枚のフルアルバムを発表。2018年12月22日には幕張メッセ9・10・11ホールにて2万人規模となる単独ライブ「BRiNG iCiNG SHiT HORSE TOUR FiNAL "THE NUDE”」を開催した。2019年4月からは全国ツアー「LiFE is COMEDY TOUR」がスタートする。現在BiSHのメンバーはモモコグミカンパニーの他、アイナ・ジ・エンド、セントチヒロ・チッチ、ハシヤスメ・アツコ、リンリン、アユニ・Dの6人。
https://www.bish.tokyo/

record bar 33 1/3rpm(レコードバー33回転)
住所:東京都渋谷区道玄坂1丁目6−2
渋谷Five Bld. by COAST 地下1階
営業時間:月曜~土曜  18:00 ~ ご入店0:30
定休日:日曜・祝日
https://www.33-1-3rpm.com/

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