教会連続放火事件とブラックメタルの「過激思想」

マシューズがヴィーケネスのファンだったかどうかは不明だが、マシューズの友人はBuzzFeed Newsに対し、彼が犯したとされる犯罪は映画『Lord of Chaos(原題)』に「影響されたのではないか」と語っている。

ヴィーケネスの生涯や教会の放火、1990年代初期のノルウェーのブラックメタル・シーンなどを題材にした映画だ。マシューズの名前で投稿されたFacebookのコメントには、ヴィーケネスの行動をはっきり支持しているとは言えないまでも、映画を称賛するコメントが書かれていた。「いい映画だ、まあ“ハリウッド系”ではあるけれど、それでも面白い。この映画が嫌いだというやつは、難しく考えすぎなんだよ。ヴァーグの言うことをいちいち全部真に受けてるのさ」(おそらく、こうした意見なのは彼1人ぐらいである点に注目するべきだろう。ローリングストーン誌のコリー・グロウ記者がこの映画につけた評価は星1.5だった)。

ヴィーケネスの影響は今もなお、過激な思想を持つ一部のブラックメタル・ファンの間に見受けられる。たしかに、4月上旬にはジェイコブ・ローウェンスタインと名乗るブラックメタルのドラマーが、ニュージーランドのモルモン教の教会に火をつけて放火罪で逮捕・起訴された。ローウェンスタインは放火の動機をヴィーケネスとは語っていないが、多くのメディアがこの事件と『Lords of Chaos』の中に出てくる犯罪との類似点を指摘している。



16年刑務所に服役した後、ヴィーケネスは2009年に仮釈放され、妻子とともにフランスへ移住。その後は白人至上主義者で、2011年にノルウェー社会党員のサマーキャンプで発砲し、77人を銃殺したアンネシュ・ブレイビク氏の声明文を早い段階で受け取っていたと報道され、2013年に再び逮捕される。最終的にヴィーケネスは2014年、人種差別を扇動したとして、フランスの裁判所から有罪判決を受け、6カ月の執行猶予と罰金の刑を言い渡された。2013年の逮捕以来比較的おとなしくしているが、いまも自身のYouTubeチャンネルには定期的に投稿を続けている。

ヘンケス氏は、マシューズや事件に関する詳細が明らかにならないうちは、ルイジアナの教会の火災をヴィーケネスや白人至上主義全般と結びつけることに慎重な姿勢を見せている。「今回の事件を人種差別的な動機と結び付けるのには抵抗があります。その一方で、ここ数カ月多くの地域でみられる状況と切り離すこともできません」。近年ヘイト・クライムの件数は著しく上昇し、FBIの調べでは2016年から2017年の間だけでも17パーセント増加しているという。教会や礼拝所はとくに標的にされやすい。2015年に起きたチャールストン教会の銃撃事件、昨年ピッツバーグのシナゴーグで起きた大量殺人、そして先月クライストチャーチのモスクで起きた殺人事件。これらの事件の犯人はすべて白人至上主義の思想に染まった人物だった。

マシューズの動機が何であれ、ルイジアナの歴史ある黒人教会の信者たちが、火災によってもたらされた被害からすぐに立ち直ることは難しいだろう。教会への攻撃は、コミュニティの中で「もっとも神聖かつ守られた空間への襲撃」だとヘンケス氏は言う。「非常に罪深いおこないなのです」

Translated by Akiko Kato

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