ケイシー・マスグレイヴス、超満員の来日公演で魅せた虹色のエンターテインメント

また、この日は「カントリー・ミュージックの伝道師」としてのケイシーの演出にも圧倒された。中盤にはスライド・ギターとペダル・スティールがゆったりと心地いい「ウエスタン・ジャム」と題されたセッションを挟み、続けて披露された『ページェント・マテリアル』(2015年)収録の「ハイ・タイム」では、会場中に美しくこだまする口笛の音色も加わって、アメリカ南部の牧歌的な光景が思い浮かんでしまった。さらに、バラード曲「マザー」からはバック・バンドのメンバーが楽器を持ち替えて彼女の周りに集まり、アコースティック・ギター、バンジョー、ペダル・スティール、バイオリン、コントラバスといった複数の弦楽器を用いたブルー・グラス風スタイルで4曲を披露。しかも、「ヴェルヴェット・エルヴィス」を歌い始める前にはカントリーやカウボーイでお馴染みの「イーハー(Yeehaw)」シャウトをコール&レスポンス。当のケイシーは「カントリーってこんなにハッピーで楽しいんだよ」と言わんばかりの笑顔を浮かべていたが、ここまでディープにカントリー・ミュージックの世界に浸れたのは嬉しい誤算である。

ちなみに「イーハー」といえば、いまアメリカの音楽シーン/ファッション業界ではカーディBからソランジュ、ミツキ、そして最新全米No.1ヒットのリル・ナズ・X「オールド・タウン・ロード」に至るまで、カウボーイ・カルチャーを引用する「イーハー・アジェンダ」なるムーブメントが起きている。その潮流にいち早くリアクションしていたのがケイシーで、とあるファンの「ヤバい! 私カントリー・ミュージックは嫌いなのに、ケイシー・マスグレイヴスはマジ最高!」というツイートにユーモラスに反応したり、ド派手なカウボーイ・ファッションを纏ってみせたり、「イーハー・アジェンダ」を熱烈に歓迎。そんな彼女の飾らないキャラクターがあったからこそ、この日も私たちに「南部の白人たちの音楽」「保守的」といったステレオタイプの向こう側にある、カントリー・ミュージックの喜びに溢れた「エンターテインメント性」を体験できるステージになったのだろう。

そして、アンコールで披露された『ゴールデン・アワー』随一のディスコ・ナンバー「ハイ・ホース」では、「フジロック」の時と同じく2人の舞妓さんが登場。ケイシーは扇子を仰ぎながら舞い踊っていたが、"テキサス・ミーツ・東京"とも言える日本公演ならではの演出で、リキッドルームをきらびやかなディスコ空間へと変えてみせた。

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ケイシー・マスグレイヴスのTwitterより

この日のフロアには、まだ10代の少年少女や外国人のグループもいれば、テンガロンハットを被った生粋のカントリー・ラヴァーや、何度もハグし合う素敵なゲイ・カップルも多く見られた。それは、オーガニックなカントリーと幻想的なサイケデリア、そして都会のディスコが自然に溶け合うケイシーの音楽のように、一切の壁を感じさせない光景だ。ほんの少し前までは何の繋がりも持たなかった人々が、一筋の虹の下で歌の喜びを共有する――。ケイシー・マスグレイヴスの奏でる音楽には、そんな「魔法」がかけられているのかもしれない。



Kacey Musgraves oh, what a world: tour II

日程:2019年5月20日(月)
会場:東京 恵比寿LIQUIDROOM

=SET LIST=
1. スロウ・バーン
2. ワンダー・ウーマン
3. バタフライズ
4. ラヴリー・ウィークエンド
5. ハッピー&サッド
6. メリー
7. ウェスタン・ジャム~ハイ・タイム(メドレー)
8. ゴールデン・アワー
9. ダイ・ファン
10. マザー
11. オー、ホワット・ア・ワールド
12. ファミリー
13. ラヴ・イズ・ア・ワイルド・シング
14. ヴェルヴェット・エルヴィス
15. 恋のサバイバル(カバー)
16. スペース・カウボーイ
17. アロウ
18. レインボー
19. ハイ・ホース

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