人間椅子・和嶋慎治が「青春の情熱」のまま、一度も休まず30年間バンド活動できた理由

曲作りにおける人間椅子の「伝統」とは?

―リード曲の「無情のスキャット」のMVも隅から隅まで見どころ満載です。メンバーの皆さんの迫力が新たな次元に達したと感じました。

和嶋:今回もたくさんヘヴィな曲が入ってますが、アルバムの最後にヘヴィな曲で終わりたいという、人間椅子の伝統があるんです。余韻を残して終わりたい。そういう曲ってだいたい長くなるんですけど、この8分もある曲をMVにしちゃって大丈夫かなと思いました。普通、リード曲は5分以内にしたほうが良いとは思うんですが、我々はヘヴィな音楽をやろうとしているわけなので、このまま行ってもいいかなと。ずいぶん昔、2ndアルバムの頃も、「夜叉ヶ池」という7分越えの曲でMVを作ったので、今回が最初ではないんですけど、「無情のスキャット」は展開のある曲なんで、MVにしたとしても、そんなにダレることなくいけるのではないかと思ったんです。

―それだけ見せ場が豊富な楽曲ということですね。

和嶋:この曲は、歌詞の面でも、青春の憂鬱を上手く表わせました。かなりルサンチマン的な感じで歌詞を書いてみたんですけど、こうとしか書けなかったですね。

―そんなルサンチマンをスキャットに乗せるというところに痺れました。

和嶋:そういうふうにしようと思ったんですよ。本当に苦しい状況や辛い状況に置かれた場合、もう言葉なんか出てこないと思うんですよね。

―ああ、そういう心境を表わしたスキャットなんですね!

和嶋:叫びとかため息しか出ないと思うんですよ。言語化できないんです。そういう曲にして、サビをスキャットにすると、その感じをうまく表わせるかなと思って。別に歌詞をサボったわけじゃなくて(笑)、あえてこうしたかったんです。

―そういう背景を聞くと、「たしかに!」と頷きたくなります。『新青年』というアルバムを締め括るにふさわしい最後の1ピースですね。

和嶋:そうですね。多分、誰しもこういう気持ちになることはあると思うんですよね。神様みたいなものですけど、誰かにすがりたくなる状況を誰もが経験するはず。でも、そこは日本人の美徳だと思うんですけど、ただ卑屈になるのではなく、神様に「自分を救ってください」と願うと同時に「世界中の人も幸せになりますように」って付け足すと思うんですよ。

―なるほど。

嶋:「自分も含めて、みんなが幸せになればいい」っていうのが、やっぱり救いだと思うんですよ。それを歌詞の最後の4行に込めてみました。

―「私の命に光を 私の明日に光を すべての命に光を すべての明日に光を」という部分。「私」から「すべて」に視点が広がっています。

和嶋:突き詰めれば、すべての一つの表れが私にしか過ぎないと思うんで、最後はそういう終わりにしたかったんです。アルバムの構成としては、ビートルズの『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』みたいになれば面白いなと思ってたんですよね。つまり、テーマみたいな感じでアルバムが始まって、バラエティに富みつつ、最後はなんとなく暗い感じで終わるという。「無情のスキャット」には「あ~」という叫びみたいなのが最後に入ってるんですけど、あれはちょっと「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」っぽくて良いなぁと(笑)。結果論ですけどね。このアルバムには、そういう面白い仕掛けがいろいろと入ってると思うんで、そこも意識しながら、聴いていただきたいです。

―人間椅子の作品を聴くと、人間椅子のルーツにあたるバンドを聴きたくなってきますね。和嶋さんのお好きなビートルズはもちろん、ブラック・サバスなどもそうです。今回のジャケットを初めて見た時、ピンク・フロイドの匂いがしたんですよ。

和嶋:これは取材のたびに言われています(笑)。『夜明けの口笛吹き』みたいだって。僕はジミヘンかなと思ってたんですが、色合いはたしかにピンク・フロイドっぽいですね。この写真がとても良いと思ったのは、江戸川乱歩の小説って、レンズ嗜好症の話が多いじゃないですか。

―『鏡地獄』もそうですね。

和嶋:『押絵と旅する男』もそう。あれも望遠鏡が出てきます。そういったレンズや鏡が小道具としてよく出てくるので、これも非常に乱歩っぽいかなと思ったんですけどね。

―ちょっと猟奇的な感じもしますし。

和嶋:景色が違って見えるっていうね。

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