韻シストBASI&TAKUが語る、『SHINE』制作秘話と現代への視点

「初期衝動に回帰したわけではなく、体に染みついていることが自然と出てる感じ」(TAKU)

―「One for All」、すなわち、ひとりの個性がみんなのためにあるように選んだ曲を、「All for Shine」、みんなで輝くものにしていく。そう考えるとばっちりですね。そして完成した作品は、結果として幕の内弁当のようなものになったのか、まったく異なるものになったのか、そこはどうですか?

TAKU:メンバーそれぞれの感想はあると思うんですけど、僕としては幕の内弁当的なバリエーションはないと思いますね。

BASI:うん、幕の内弁当ではないかな。『IN-FINITY』は、卵焼き、シャケ、ほうれん草、みたいなノリで、「この辺にピッチの速いもの」とか「ここでレゲエ」とか「ブルージーな曲はここやろ」とか、そんな感じで作っていったんですよ。それと比べると、今回は栄養が偏ってるのかもしれないけど、ある種、そういうバランスすら凌駕した自負もあります。

TAKU:幕の内弁当に引っ張られたけどまったく決まらなくて、結局それぞれが挙げた6曲になって。その結果、謎の出汁が出ていい味になったと思います。作品をいくつ作っても、こういうことってあるんですよね。今回は特にそうだった。だから、はよ次の作品を作りたいとも思ってます。


TAKU

―最初からそれぞれが入れたい曲を挙げていったのではなく、うまくいった前例に引っ張られてしまったからこその意味があるような気がします。まさに、「謎の出汁」が出ていると思うんです。90年代のヒップホップに軸足はありつつ、回帰的なものではなく、かと言って現代との同時代性をそこまで意識したようなサウンドでもなく、韻シストらしいようでこれまでにないタイプでもある。その温度感が独特で。

TAKU:僕は勝手に、「AOR」──「アダルト・オリエンテッド・ロック」ならぬ、「アダルト・オリエンテッド・ラップ」って言ってるんです。90年代のヒップホップは自分たちの初期衝動の一ひとつですし、すごく大切にしています。でも、そこに回帰したわけではなく、体に染みついていることが自然と出てる感じ。あとは、バーンと演奏してドカーンと爆発する、若さ溢れるパンク的なエネルギーに刺激されることもありますし、先輩の背中を見て学んだこともある。そういう要素がうまく混ざったうえでの、より洗練された、ヒップホップでありラップミュージックだなと。落ち着いた丁寧な演奏とか、しっかりしたアレンジとか、そういうことはこれまででもっともしっかり出せたと思います。

「我慢している人や、ネガティヴな気持ちの人がいないまま、僕らがおもろいと思うものを、最初から最後までやらせてもらえた」(BASI)

―「アダルト・オリエンテッド・ラップ」という言葉はすごくしっくりきます。

TAKU:韻シストって、5人の個性を石だとすると、曲によって必要な部分とそうでない部分を見極めて、いらないところは削ったりしながら綺麗な形を作っていくことはしてなくて。それぞれ変な形のままなんやけど、「これとこれ、変やけど、なんか合うよな」、みたいな、妙に綺麗にはまってるところがあるんですよね。このアルバムは、わかりやすく形作った作品ではないけど、そういう感じが「謎の出汁」としてすごく出てるんじゃないかと思います。

BASI:今回は、商業的な要素がゼロっていうか……自分たちがめっちゃ好きなものの純度が高いんですよね。

―それはすごく伝わってきます。ポップだとか聴きやすいだとか、そういう耳触りからくる理屈ではなく、もっと本質的なところで、オープンな気持ちになれる作品ですよね。

BASI:着実に実績を積んできたことで、制作に関わる人たちも、僕らのフィーリングをだいぶ理解してくれてきたんやと思います。韻シストがやりたいことに、全員でトライしようってムードも感じられて。我慢している人や、ネガティヴな気持ちの人がいないまま、僕らがおもろいと思うものを、最初から最後までやらせてもらえた。それって、これまでにいろいろなすれ違いがありながら築いていった関係性があってこそなんですよ。ここまでくるのは、簡単なことじゃないから、今回すごく満足してます。

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