韻シストBASI&TAKUが語る、『SHINE』制作秘話と現代への視点

「NetflixもYouTubeもそうですけど、今はシェアする時代。時代や日常の変化が作風に大きく影響してる」(TAKU)

―そんなテーマや音楽性、制作チームの空気のなかで、曲単位のリリックはどうやって決めていったんですか?

BASI:今回は、ある意味最初から道があったんです。と言うのも、今回のビートは声ネタが多くて。どんなリリックにしようか考えることはほとんどなくて、声ネタが発信しているメッセージに向かっていったんです。“Come Around”も“Just Like This”も“Get out of my head”もそうでした。

韻シスト「Just like this」MV(AL「SHINE」収録)



TAKU:フリー素材がオープンソースで山ほどあって。昔は、著作権フリーでしっかりした声ネタってほぼ拾えなかった。今、その可能性が広がったことが作品に反映されてると思います。

BASI:90年代によく聴いてたアーティストが、今になって「俺のビート使ってええで」って。最近までそれを使うことは許されへんかったから、そこから何も生みようがなかったけど、今それができるようになったっていう差は大きいですよね。

TAKU:となると、フリーのサンプルとかハーモニーに対して、「これはみんな使ってそうやなあ」とか、「このまま使うのはなしやから、こう変えてみよか」とか、そういう会話が、制作における主題として交わされるわけですよ。NetflixもYouTubeもそうですけど、今はシェアする時代。だから人々の物欲自体が減ってるとか聞くじゃないですか。今回は、音楽的に何を参考にしたとかっていうよりも、時代や日常の変化が作風に大きく影響してると思います。ちょっと優しくなったというか。

―強欲とは逆の位置にいるわけですね。

TAKU:そうそう。自分でも、トレーニングの時とか散歩の時とか、DJでかけたい曲とかも、ストリーミングサービスで作ったプレイリストを使うことが多いですし。昔は、「今月お金ないなあ。CDに使えるのは……」って、めちゃくちゃ迷ってアルバムを買って、何枚も買えないからずっと同じのを聴くしかなかったし、自然にその作者について深く知ろうとしてたけど、今は月々1000円足らずでポケットに何千万曲ですもんね。

「そんなに深く考えんでもわかるような言葉の並べ方を意識して、1回書いたらもう引き返さない」(BASI)

―とは言え、単なる曲の寄せ集めで、作品に流れがないわけではないですよね。「One For All,All For Shine」というテーマがあったとおっしゃっていたように、10数曲のアルバムが6曲のEPになっただけで、特にリリックからは全体としてストーリー性を感じました。

BASI:曲ごとのテーマは声ネタが引っ張ってくれたと言いましたけど、そのうえで意識したのは、一発書きに近いものにすること。立ち止まって捻ったり、比喩的な表現を使ったりするのではなく、そんなに深く考えんでもわかるような言葉の並べ方を意識して、1回書いたらもう引き返さないで封じ込めようと思いました。僕らは話し合ってリリックを書くタイプではなく、お互いの言葉を投げ合う感じなんで、サッコン(MC)がどう思ってたかはわからないですけど。

―個人的な話なんですが、昨晩すごい雨で、ちょっと悩み事も重なってもやもやしてたんですけど、起きたら晴れてて、そこに1曲目の“Shine”から“Come Around”の流れが重なったこともあって、「よっしゃ、行こう」と思って今ここにいるんです。この流れ、自由にやりたいようにやろうと思って、出ていった先にはすごく楽しいことがある、と私は解釈したんですよ。生活のなかで背中を押される感じが素敵だなって。

BASI:「めっちゃ雨やったけど晴れなたあ、いこか!」って、おしゃったような感覚になってくれてたのであれば、わかりやすい言葉で真っすぐ書き切ることにトライした意味はあったと思います。前作の『IN-FINITY』は20周年の作品で、キャリアを通して起こったことを踏まえてリリックを書くようなモードが確かにあって、そこにはヘヴィーなこともディープなことも含まれてました。でも、今回はそこを経てのことなんで、そういうモードがないんですよね。

―“Shine”のサウンドは、これまでにない感触が強い今作のなかにおいて、これまでの韻シストのスタイルを踏襲するディスコナンバーととらえていいのでしょうか。

TAKU:“Just Like This”のようなゆったりした曲がリードで、“Smile”もそうなんですけど、あまり力んでないようなものが世界観の中心にあるなかで、“Shine”は、韻シストの新曲っぽくて、なおかつライヴでエンジンがかかりやすいものをイメージした曲です。「One For All, All For Shine」を実現するためには、必要な曲だと思います。

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