革新的レーベルの歴史に迫る『ブルーノート・レコード ジャズを超えて』7つの見どころ

6. 新たに社長の座に就いたブルース・ランドヴァルは、ブルーノートの信念を復活させた

70年代末の時点でブルーノートは休止状態にあったが、幸いにもその歴史に幕が降ろされすことにはならなかった。新しく社長に就任したブルース・ランドヴァルは、1984年にカスクーナと共にブルーノートを本格的に再始動させた。レーベルの作品のサンプリングを許可したり、ノラ・ジョーンズやロバート・グラスパーなどのアーティストと契約するなど、ブルーノートの新たな戦略は見事に実を結んだ。

ランドヴァルが牽引したブルーノートは、ライオンとウルフが掲げたアーティスト第一主義に立ち返った。「レコード契約を交わした後、俺は彼のオフィスでアルバムの構想について話した」グラスパーはそう話す。「ブルースは俺が話すのを遮ってこう言ったよ。『君はアーティストだ。自分の信じるアートを生み出せばいい。私たちの仕事はそれを売ることだ』ってね」

「ブルーノートのアーティストでいられることを嬉しく思ってるわ。自分の思うがままに、作りたい音楽を作ることができるから」ジョーンズはそう話す。「それに、ジャズっていう枠に縛られなくて済むからね」



7. ブルーノートがUS3と結んだパートナーシップは、現在のジャズとヒップホップのクロスオーバーの源流となった

1993年、ブルーノートはイギリスのヒップホップグループUs3(グループ名はピアニストのホレス・パーランが同レーベルに残したセッションにちなんでいる)に、ハービー・ハンコックの1964年作『エンピリアン・アイルズ』に収録された「カンタロープ・アイランド」のサンプリングを許可した。「『きっとダメですよね?』って言ってきた彼らに、私はこう伝えたんだ。『あの曲だけじゃなく、ブルーノートの全作品を使ってくれて構わない。アルバムを作ろうじゃないか』ってね」

ハンコックの曲をベースにしたUS3のシングル「カンタループ」(アート・ブレイキーがブルーノートに残したライブアルバムの会話部分も使われている)はトップ10入りを果たし、以降ブルーノートの作品は無数のヒップホップのレコードでサンプリングされることになる。「僕はヒップホップを通じてジャズの魅力を知ったんだ」プロデューサーでマルチ奏者のテラス・マーティンは、本作でそう語っている。



「カンタループ」から20年後、グラスパー(彼はレーベルメイトであるアンブローズ・アキンムシーレと共に、シーンを揺るがしたケンドリック・ラマーの2015年作『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』に参加している)はジャズとヒップホップとR&Bを見事に融合させた2012年作『ブラック・レディオ』で、グラミーの最優秀R&Bアルバム賞を受賞した。

アキンムシーレもまた本作に出演しており、ブルーノートの作品群が誇る大胆で自由な発想と、ヒップホップの核をなすエトスの共通点について語っている。「目的という意味において、ヒップホップとジャズには接点があると思う」気鋭のトランペッターはそう語る。「ラップやポエトリーリーディングが乗っていればジャズじゃない、なんていう考え方は古い。僕にとって、ヒップホップとジャズは同意義なんだ」







『ブルーノート・レコード ジャズを越えて』

9月6日(金)よりBunkamura ル・シネマほか全国順次公開
監督:ソフィー・フーバー
出演:ハービー・ハンコック、ウェイン・ショーター、ルー・ドナルドソン、ノラ・ジョーンズ、ロバート・グラスパー、アンブローズ・アキンムシーレ、ケンドリック・スコット、ドン・ウォズ、アリ・シャヒード・ムハマド(ア・トライブ・コールド・クエスト)、テラス・マーティン、ケンドリック・ラマー(声の出演) etc.
字幕翻訳:行方均
配給:EASTWORLD ENTERTAINMENT
協力:スターキャット
2018年 スイス/米/英合作 85分
©️MIRA FILM

公式サイト:
https://www.universal-music.co.jp/cinema/bluenote/

Translated by Masaaki Yoshida

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