なぜアーティストは壊れやすいのか? 精神科医・本田秀夫と手島将彦が音楽業界を語る

─これは本書のポイントでもありますが、1人でも近くに受け入れてくれる人がいるかが重要だと。ただ、本当にそういう人がいない場合、どうしたらいいんでしょう。親にも相談できない、関係者にも怖いから話せない、その結果リストカットみたいなケースって少なくないと感じていて。

本田:多いと思いますよ。病院まですぐ来てくれればいいんですけど、なかなかそういう考えにはならないというか。

手島:そういうところに足を運びにくい何かが日本社会にはすごくありますよね。それが少しずつでも変わってくれたら良いのですが。

本田:メンタルで悩んでいる若い人たちが、精神科もしくはカウンセラーのところに来てくれたら、少なくともやれることがあるはずなんだけど、いきなりはハードルが高いだろうから、そこを繋ぐ中間みたいな機関がほしいんですよね。保健所は少しその中間になってくれたりはするんですけどね。

手島:足を運べないという人のことも、さっきも極端に言いましたけど、まず根本的な発想として、1回「全部世の中のせいだ」と考えてみたら意外と次に行けるかもしれません。本来、誰かが生きていくのにクリアしなければならない条件なんてないんです。だから、例えば生活保護を申請することだって、むしろ当然の権利なわけですし。ただ、世の中がすぐ変わらなかったりする場合、世の中との無理のない付合い方を知ることも必要で。そのとっかかりとなるのかもしれないのが、医師やカウンセラーを含めた当事者の周囲にいる支援者、ということなんだと思います。

─社会を変えていかなきゃいけないけど、すぐに変わるものでもないということを考えると、まずは自分自身を守るために考え方を変えてみることが必要だと。

手島:視点がちょっと変わるだけでも、物事が動くのかなという気もするんです。変な話、本書に書いてあることって、詳しい人からしたら当然知っていますよという話ばかりなんですよ。ただ、知らない人は全く知らない。前作の発達障害に関しても、詳しい人はどんどん詳しくなっていくけど、知らない人は全く知らないんですよね。もしくは知ろうとしないか、かじった部分だけで間違った知識をつけていくみたいな。本書を通して、なんでもいいので、違う発想を持ってもらうきっかけになったらいいなって思います。



<書籍情報>



手島将彦
『なぜアーティストは壊れやすいのか? 音楽業界から学ぶカウンセリング入門』

発売元:SW
発売日:2019年9月20日(金)
224ページ ソフトカバー並製
本体定価:1500円(税抜)
https://www.amazon.co.jp/dp/4909877029

本田秀夫(精神科医)コメント
個性的であることが評価される一方で、産業として成立することも求められるアーティストたち。すぐれた作品を出す一方で、私生活ではさまざまな苦悩を経験する人も多い。この本は、個性を生かしながら生活上の問題の解決をはかるためのカウンセリングについて書かれている。アーティスト/音楽学校教師/産業カウンセラーの顔をもつ手島将彦氏による、説得力のある論考である。

Rolling Stone Japan 編集部

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