日本で見たスタークローラーの衝撃—話を少し戻すと、2018年1月にデビューアルバムが出たあと、3月に初来日ツアーが行われました。掟:俺は東京の2公演に行きました。渋谷CHELSEA HOTELの追加公演が一番最初で。
—それまでに動画を見まくってたそうですが、やっぱり生は違いましたか?掟:そうですね、有り難みがありますよね。188cmいいですねー!
—やはりそこ(笑)。掟:最高ですよねー。特にあの腰骨ね! 腰骨が浮いて前に突き出てるんですよ。腰骨が浮いた人って日本じゃなかなかいないので。エヴァンゲリオン初号機にすごく似てるんですよね。最初から暴走状態で出てきた感じ。たぶんエヴァのファンにはウケると思います。
腰骨とエヴァっぽさがよくわかる動画アロウが監督を務めた「Love’s Gone Again」のMVは、ジャパン・ツアーのライブ映像を中心に構成—初来日の頃から熱狂的なファンが多かったそうですね。掟さんが上坂すみれさんに提供した「チチキトク スグカエレ」の歌詞も、この時のエピソードに由来していると聞きました。掟:たまに俺のイベントに来てくれる、40代後半くらいのアイドルオタがいて。スタークローラーのライブで彼と会ったら、「本当はここに来てる場合じゃないんですよ」って。「どうしたの?」って訊いたら「今、親父が死にそうで。でも、明日も掟さんのトークライブがありますよね? それ絶対に行きたいんですよねー」って。それで、翌日に親父が亡くなったのに、結局俺の出演するトークライブが終わって……7、8時間は経ってたのかな? やっと自分の兄弟に電話かけてましたよ。「親父死んだ」って。
—どうしようもない(笑)。掟:そういう人がファンのバンドです、スタークローラー(笑)。父が危篤でも観に行く、その価値があるっていう。
—その数カ月後にスタークローラーのフジロック出演が決まったときは、「シスターズ・オブ・マーシーの時はなんとか堪えたけど、今回はさすがに観たいなー」とツイートされてました(※)。※1980年にイングランドのリーズで結成された、ゴス/ポジティブ・パンクの大家。当初は中心人物のアンドリュー・エルドリッジがギターとドラムを兼任していたが、「ドクター・アバランシュ」なるドラムマシンをメンバーに迎えて独自のスタイルを築いた。2011年に結成30周年を記念した世界ツアーが行われ、その一環でフジロックでの初来日が実現。掟:フジロックとなったら、チケットと交通費だけで何万円もかかるし、シスターズ・オブ・マーシーのためだけに行くのはなーと。実際の来日のときの画像も見たんですが、アンドリューも丸坊主になって、なんかドンキで売ってそうな白い半袖パーカー着て出てきて、四方に向かってお辞儀してたとかで、佇まい的にはゴシックの欠片もなかったですね……。昔のバンドが懐メロやるだけじゃ、さすがに行かないかなって。
—他の出演者には興味なさそうですしね。掟:普通のバンドは嫌いなんですよ。フジロックに出ているバンドは家族連れでも安心して見られる普通のバンドがほとんどですから。だから客としては、本来だったら行かないですよね。でも、スタークローラーは初来日の時点でフジロックの話を小耳に挟んでいたので、これはなんとしても仕事を絡めて無理やり行こうと。そしたら、本当にスタークローラーのレポートだけでOKいただけて(
耳マンに掲載)。SMASHさんは懐が深い! ありがとうございます!
—よかったですね!掟:それだけじゃ悪いんで出店のレポートとかもしました。「こんなに美味しい油そばがあるんですよ!」みたいな(笑)。実際に行ってみたら、フードや娯楽施設が充実してて、ライブ観なくても全然楽しめました。フジロックに対する認識が間違ってたなって。
スタークローラー、2018年3月のTSUTAYA O-nest公演にて(Photo by Kazumichi Kokei)※その他のライブ写真を見る—スタークローラーのライブはどうでしたか?掟:いやー、これは言うべきではないかもしれませんけど……アロウちゃんの乳首がガッツリ透けてまして……。
—ああ……(苦笑)。掟:アメリカ人だからノーブラでも気にしないのかな。初来日の時も乳首がビンビンに立ってて「オワ、なんじゃこりゃー!」って。で、それを
ツイートしたあと、アメリカに帰ってからのライブを観ると、ずっとブラジャーしてたんですよ(笑)。たぶん、レーベルの方がお伝えいただいたのかと……。
レーベル担当:伝えてないです! ウチの会社でも「乳首見えてる」ってザワザワしてました。
掟:じゃあ国によって違うんですかね? 日本じゃ透けてるけど台湾じゃ出さない、みたいな。フジロックではまた透けてましたし。
—そんなバカな(笑)。掟:あと、ヘンリーがその日の気分でテキトーな服を着てくるのも面白い。初来日のときも、ライブ終わりに出てきたと思ったらホテルのガウンを着て。お前、どこに泊まってるかバレバレじゃねーかって! フジロックでは祭絆纏と麦わら帽子。とにかく子供でバカなんですよ。パンクロックは「10代の音楽」と言いますけど、彼らはほんっとに初期衝動のまま。今の時期に会えてよかったなーって。なかなか歳をとると若いバンドに出会う機会ってないですから。それが非常に嬉しいというか。
—「ロックンロールの未来」と言われるのも頷けます。掟:ロックは死んだといわれて久しいわけで。今はロックバンドという構造自体、なかなか成立しづらいと思うんですよね。仲いいか悪いかわかんないのに、音楽性が近いからって集まって他人と一緒に曲をやんなきゃいけないっていう、そのシステム自体が非合理的じゃないですか。今の若い子はヒップホップやったり、自分でトラック作ってテクノやったり、シンセサイザーで作る音楽の方がずっと身近ですよね。そんな時代に、こういうロックでしか出せない魅力満載の、ケレン味だらけのバンドが出てきてくれるなんて思ってもみなくて。ちょっとLAにも興味が出てきましたもん。こんなバンドが今出てくるのはなんでだろうって。