ー余談ですけど、スタンリー・キューブリックには謝らなくても良いんですかね。ポール:……。うーん、キューブリック問題ね(笑)。キューブリックはファン多いからな。でも個人的には全く謝る必要がないと思ってるんですけどね。あいつはちょっとtoo seriousに、これは意味があるものなんだと説得している。本当の欲望はもっと幼稚で純粋なのに、大上段に構えたから大作家に見られているって個人的には思っていますけどね。
ー『ゴーストマスター』の劇伴音楽にはどのようにこだわりましたか?ポール:劇伴に関しては渡邊琢磨さんが担当してくれました。彼と話したのは、いろんな種類の音楽と音色が欲しいということでしたね。懐かしさを感じるものもあるけれど、そこから一歩新しいものに聞こえるのがカッコいいと思いました。
ー小出さんが「Fear」のリリックを書かれたのは映画を見てからですか。小出:そうですね。単純にラストシーンからエンドロールに入るあの流れに対して、どういう音を当てたらいいのかな? という考えから入りました。せっかくこういう映画なので、J-ホラーというテーマだけでラップできたら日本初かも……? と思って、やってみました。
ポール:小中理論からネクロノミコンまで。最高ですよね(笑)。おかしみとかユーモアって大事だと思います。
ー白石景子さんの演じる録音の柴本幸がジューダス・プリーストのTシャツを着ていますが、あれは?ポール:その人の背景を感じさせるような衣装にしたいと思ったんです。音楽好きで、プライベートではどでかい音を聴いてる…… みたいな。だからメタルTシャツがいいかなと考えました。ただメタリカは嫌だなと思って(笑)、ジューダス・プリーストにしましたね。
ー最後に、この映画を観て扉を開かれた若者が見るべきホラー・SFのオールタイム・ベストを教えて下さい。ポール:デヴィッド・クローネンバーグが好きなんです。『スキャナーズ』(1981)は特に好きですね。ハタから見ると単に睨み合っているだけなんですけど、そこに造形が乗っかっていて。頭が爆発するアイデアとしてはシンプルなんだけど、説得力があるんです。ストーリーとしても超能力者なのに全く幸せそうじゃないという(苦笑)。
小出:今年見たやつだと、『ゴーストランドの惨劇』
(2019
)ですね。H.P.ラヴクラフトの肖像画から始まるんですよ。だから、そこからクトゥルフ神話なのかなと思って見始めるんですけど、実はラヴクラフトに憧れている女の子が主人公で、母親と一緒に引っ越した先で『悪魔のいけにえ』的な出来事に襲われるんですよ。それから10年後、『ゴーストランドの惨劇』という小説でベストセラー作家になっていて。どうするんだろうって思ったら、彼女が元々空想癖を持っていて、映画本編が彼女の空想なんですよ。現実はゴーストランドの惨劇のまま続いているのに、頭の中では10年後になっていると。その対比の見せ方が面白くて。ラヴクラフトネタだと思ってたら、ラヴクラフト本人が出てくるっという衝撃の展開で。大好きです(笑)。
ポール:ラヴクラフトに「君は才能がある」って言われるんだよね(笑)。
小出:何? この映画っていう。特殊メイクでラヴクラフト本人を再現して出したの、この映画が初めてじゃないかな。
ポール:クラシックで言うと、『死霊のはらわた』シリーズをシリーズ通してみて欲しいですね。1本1本の好みはあると思うんですけど、シリーズ全作を一気に見るべきですよ。1作目がギャグっぽいところもありつつホラーで。『〜2』はなんと1作目のパロディにするっていう。『〜3』では設定が中世になって、そんな続編の作り方アリかよ……! っていうのが面白いな。
小出:ああ言うやり方を『死霊のはらわた』が作ったから、後のホラー・パロディがたくさんやれるようになったんじゃないかな。あれがアリなら、みたいな。
ポール:よく続編はオリジナルを越えられない、みたいなこと言いますけど、違うんだと。『〜2』は1作目との格闘の記録なんだと。だからあの戦い方は僕は好きですね。
ー続編の美学はぜひ『ゴーストマスター2』でお願いします!ポール:2はどうしようかなあ(笑)。
小出:すでにパロディだしね(笑)。
<作品情報>『ゴーストマスター』2019年12月6日公開
監督:ヤング・ポール
出演:三浦貴大、成海璃子 ほか
配給:S・D・P
公式HP:
http://ghostmaster.jp/(C)2019『ゴーストマスター』製作委員会
Photo by Mitusuru Nishimura