音楽ストリーミングビジネスの成長は、音楽業界の“持てる者と持たざる者”の溝を埋める代わりに格差を広げてしまったのか?
当初、音楽ストリーミングサービスは自由参加型のユートピアのような輝きを放っていた。そこではすべてのアーティストにブレイクする平等なチャンスが与えられ、リスナーは月額9.99ドルでメジャーなものからニッチなものまで、ありとあらゆる楽曲をビュッフェ形式で延々と楽しむことができた。米WIRED誌のクリス・アンダーソン編集長は、楽観的になりすぎるあまり、音楽ストリーミングが需要と供給の概念を覆し、非ヒット曲がかつてないほどシェアを拡大するという“ロングテール理論”を2004年に提唱したのは有名な話だ。
しかしながら、現実世界の2020年では、ほとんど何も変わっていないように見える。たしかに、プレイリストがアルバムに取って代わり、ヒップホップが新たなポップスとして定着し、デジタルダウンロードはほとんど姿を消した。だが、“誰にどれだけ入るか”という重大な格差の部分は実際変わっていない。
実のところ、音楽ストリーミングは、音楽業界の“持てる者と持たざる者”の溝を埋める代わりに格差を広げたのだ。
過去1年半にわたって音楽ストリーミングサービスに楽曲を提供した160万組を超えるアーティストに目を向け、ストリーミングの総再生回数にもとづいてランク付けすると、上位層に属する1万6000組のアーティストが全ストリームの90パーセントを占めていることがわかる。それにより、160万組のアーティストが残りの10パーセントを分け合っていることも容易に計算できる。ローリングストーン誌の音楽チャートにデータを提供しているAlpha Dataのデータによると、2020年1月8日から7月17日にかけてオンデマンド型の音声および動画ストリーミングで発表された楽曲がこうした格差を示しているのだ。先日、Spotifyも自社のデータを通じて同様の状況を確認した。