氷室京介が自己表現を確立するまで 当時のディレクターが回想



田家:これはミュージック映像が衝撃的で、ヨーロッパでは放送禁止になったこともありました、独裁者が血を洗っている光景が出てきましたね。

子安:やっぱり時代といいますか。世界全体が動き始めていて、ミュージシャンとして氷室さんが表現していきたいものが凝縮されたアルバムだったんだろうなという気がしますね。

田家:ヒトラーを思わせる独裁者の演説があって、氷室さんはそれに扮装して演じていた。そこから普通の人間に戻っていくというストーリーがありました。この『NEO FASCIO』は『FLOWERS for ALGERNON』とは違ってもっと社会性のあるコンセプトが柱になっておりました。“新しいファシズム”ですからね。

子安:『SUMMER GAME』というポピュラリティのある作品から、ある意味で真逆というか。振り幅の凄さが氷室さんの凄さに繋がってるというか。本当であれば、ここまでポピュラリティのあるところに行っている人が、こういうアルバムを世の中に出すべきなのだろうか? と言われるかもしれないのを敢えて出した。ある意味での自信でもあるだろうし、その両面があるからさらに高みに登っていけるということだと思いますね。

田家:アルバムの方向性を聞いた時に、レコード会社の担当者としてどう思いました?

子安:普通に考えると売りにくい、世の中に伝わりにくいという意味で大丈夫かな? と思うのが普通なのかもしれませんが、自分の中ではそんなに心配はなかったというか。『SUMMER GAME』からの流れもあるかもしれませんが、ファンとの信頼関係がものすごくしっかり積み重ねられてきている。だからファンに、えぇっと思われるようにはならないだろうな、という確信はありました。

田家:当時氷室さんは、ピンク・フロイドの映画『ピンク・フロイド ザ・ウォール』を観て感動して、ロックとファシズムというのは密接なテーマなんじゃないかと仰っていました。

子安:ロックスターがステージで手を振り上げれば、お客さんが皆手を上げる。1対5万人が動くという凄さであり恐ろしさであり、紙一重なところがありますよね。

田家:このアルバムはプロデューサーの佐久間正英さんと氷室さん、ほとんど2人で作られたようなものだと。

子安:佐久間さんと氷室さんと、ドラマーのそうる透さんという最小の人数で作り上げたんですけど、音だけ聴くとそんな感じはしないですよね。

田家:佐久間さんはBOØWYの時から関わっていた方で。佐久間さんの存在はBOØWYだけではなく、氷室さんにとっても大きかったでしょうね。

子安:ものすごく大きかったと思いますね。佐久間さんの人間的な深さや音楽的な深さが、氷室さんとものすごく良い形でコラボレーションしていたと思いますね。

田家:そういうアルバムの中から子安さんが選ばれたのは次の曲です。

Rolling Stone Japan 編集部

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