中島みゆきから世間へのエール プロデューサーの瀬尾一三とともに振り返る

空と君のあいだに / 中島みゆき

田家:1994年のシングルで、アルバムは同年にリリースされた『LOVE OR NOTHING』に収録されております。今回のセレクションアルバムのタイトル『ここにいるよ』も、この曲の歌詞からとったんだなと思いました。

瀬尾:そうです。

田家:なぜこの曲で始まっているかがよく分かるというのが、「ここにいるよ」という歌詞が入っているだけではなくて、「君が笑ってくれるなら」という一節ですね。去年から今年の年明けの気分でもあるんだと思うんですね。

瀬尾:明るい話題があまりになかったので。せめて笑っていたいですよね。おかしくて笑うだけではなくて、夢見て微笑むとか家族や家庭など身近なものに対して、今まで仕事などで忙しくて見過ごしていたものを見つめる時間を作ってくれたのかもしれないですね。そこには幸せや微笑ましいことがあったりするかもしれないので、そういうものを感じて欲しいというのもあったかもしれません。

田家:Disc1にはエール盤というサブタイトルがついています。

旅人のうた / 中島みゆき

田家:続いて同じく2枚組セレクションアルバム『ここにいるよ』のDisc1の2曲目「旅人のうた」。1995年のシングル、アルバムは1996年『パラダイス・カフェ』に入っておりました。イントロがとても耳に残る曲ですね。瀬尾さんは、イントロの魔術師と言われております。

瀬尾:これもドラマ『家なき子』のシーズン2の曲で、前のシーズンの主題歌「空と君のあいだに」に負けない感じにしようと。

田家:「空と君のあいだに」の広がり方と「旅人のうた」の重さは違いますね。

瀬尾:そうですね、こっちの方がずっしりというか。お腹に響くような感じで作った感じではあります。

田家:このセレクションアルバム『ここにいるよ』の企画はいつから考えられていたんですか?

瀬尾:コロナ禍の中でツアーが思うようにできなくなってしまった時点で、ツアーに代われるものにはならないですけど、中島さんの気持ちをわかってもらうためにはこの作品で伝えるしかないというのと、新しいレコーディングもこの状況ではできなかったので。だったら、過去に出した作品から皆さんにエールを送れる曲と、側に寄り添ってくれる作品ということで作ろうかという話になりました。



田家:こういう時期だからこそ、こういう選曲のアルバムになったんですもんね。

瀬尾:もしかしたらこういう選曲でセレクションするということがなかったかもしれませんね。

田家:「空と君のあいだに」の後にこの曲が入っているというのもこのアルバムだけかもしれないですね。

瀬尾:さっきの「空と君のあいだに」の広がりの中で言うと、こちらの方がある意味で精神世界を歌っていると思います。「空と君のあいだに」は本人も犬目線で書いたと冗談っぽく言っていますけど、これはもう少し人間の心の中を歌っているので、その辺がちょっと違うんですね。なので、サウンドも少し重くしているんですけどね。

田家:「空と君のあいだに」は、"ここにいるよ"と歌っていましたが、「旅人のうた」は"ここにあるよ"と歌っていました。

瀬尾:“ある”と“いる”では意味が違いますけども、“いるよ”というのはさっきも言った犬の気持ち。“あるよ”というのは、彼女の消えない夢がここにあることを皆に言いたいと思っているので。夢という抽象的なものが、必ずここにあるからねと言っているんだと思います。

田家:人がいるよ、愛があるよと歌っている。「空と君のあいだに」では、“君が笑ってくれるなら”。「旅人のうた」では、“君よ歌ってくれ”。ここですね。

瀬尾:そうですね。歌うっていうのは笑うというよりも能動的なんですね。本当に声を出して歌うわけでなくてもいいんですけど、ちゃんと行動しているという点で前向きな感じですよね。

田家:2021年、世界よ歌ってくれという歌でもあります。

Rolling Stone Japan 編集部

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