スパークスとエドガー・ライト監督が語る、最新ドキュメンタリーと謎多きバンドの50年史

スパークスが21世紀に復活した理由

エドガー:スパークスをバンドとして輝かせると同時に、彼らを目立たなくさせている理由は、彼らがいる前で言うのも何だが、彼らが「舞台の中心」にいながらも、ダンスフロアの片隅から舞台について批評しているからだ。一定の距離を置きながらも、ものごとをさらに面白くしてくれている感じだ。12歳からスパークスのファンになった人たちの多くが、今なおバンドを話題にしている。自分が若い時にお気に入りだった他のバンドでは、そうはいかない。スパークスの昔の曲の中には、むしろ今の演奏の方が素晴らしく聴こえるものもある。

ロン:映画の中でも触れられているが、僕らは2008年の一連のコンサートで、全アルバムを時系列に並べて、最初から最後まで全曲演奏した。それはどう言えばいいか……愚行だ(笑)。馬鹿げた行いだったが、僕らとしては古い曲を復活させて演奏できたのだから、価値があった。僕ら自身が半分忘れかけていたアルバムも日の目を見た。機械的に聞こえるからあまり使いたくない言葉だが、全体が一つの「作品」なんだ。それぞれ違う楽曲が、一つに調和するのが分かると思う。僕らには勉強になる経験だった。(暫く間を置いて)でも絶対に、二度とやらないけれどね(笑)。


2008年、スパークスによる21日連続アルバム再現ライブ「SPARKS LIVE! SPECTACULAR – 21 ALBUMS IN 21 NIGHTS」の模様。その後、同年のフジロックに出演し日本でも多くのファンを獲得した。

ーその経験がなくても、今回のドキュメンタリー映画は実現したと思いますか? もちろん、あなた方は適任者が現れるのを待っていた訳ですが、21日間で21枚のアルバムを網羅して一連の作品を振り返るのは、自分たちのキャリアに必要不可欠なものだったのではないでしょうか?

ラッセル:その通りだと思う。僕らは、あの一連のコンサートを実現させたことを誇りに思っている。あれで、後ろは振り返りたくないというハードルを越えられたと思う。僕らは、過去を振り返るようなバンドではない。僕らの強みの一つは、自分たちの過去の歴史には目をつぶって前だけを見据え、次の時代へ向けてのメッセージを発信するために必要なことに集中できる点だと思う。

全アルバムを演奏しようというアイディアはとても斬新だと思ったから、僕らはその企画に乗った。他のバンドではやらないようなことだから、僕らがやらねばならない、と思ったのさ。ロンが言ったように、自分たちのキャリアを見つめ直す一つの方法だった。見過ごされてきたアルバムを見直すチャンスでもあった。見過ごされていたから悪い作品だ、と自分たちで思い込んでいた面もある。ライブでやってみたら、それほど悪くはなかった。むしろ良い感触だった。

無意識のうちに、エドガーが僕らに求めていた通りになっていたのかもしれないな。もちろん、映画制作に踏み出す前には不安もあった。スパークスについては、世間にほとんど知られていない。僕としてはそれでいいと思っていたし、ミステリーに包まれたバンドのままでいたかった。だから人々が映画を見に行って「こんなバンドなのか」と思われるのが嫌だった(笑)。幸いなことに、エドガーは僕らのイメージを壊さないようにしてくれた。

エドガー:ついにスパークスのベールが剥がされる。

ーどれも真実ではないのでしょうか。

ロン:一部は事実だ。ただし、どれが事実かは分からない(笑)。

ー映画では実際に、バンドの各時期の貴重な映像も多く見られます。

エドガー:70年代のテレビ番組のあるクリップは、ロンもラッセルも覚えていなかった。彼らに自分たちのパフォーマンスを見せてやるのは、気分が良かった(笑)。その他に、『Big Beat』ツアーをスーパー8フィルムで撮影した映像など、ファンによる映像もたくさん含まれる。今は誰もがスマホを持ち歩く時代だが、当時は撮影用のカメラをコンサート会場へこっそり持ち込まねばならなかった。さらに、当時の映像を今なお保管しているのが凄い。あるドイツのテレビプロデューサーの息子だという人間が、「家の屋根裏に、父親が35mmで撮った1974年のスパークスの映像があるけれど、興味があるかい?」といった感じさ。

Twitter上でファンに呼びかけたところ、多くの素材が集まってきた。中には、インタビューを受ける側に回ったファンもいる。個人的に気に入っているのは、バンドがファンにもみくちゃにされている1974年の映像だ。映画では、ロンに後ろから抱きついた当時14歳のファンの証言もある。彼女は、バンドを好きになった経緯などをメールで書いて送ってきた。私はプロデューサーに「彼女がカメラの前で話してくれたら、きっといいシーンになるぞ!」と伝えた。

そうして自然発生的な口述史ができあがった。スパークスの1ファン、そして映画監督として、バンドについてならどんな人とも話をしたかった。『トップ・オブ・ザ・ポップス』に出演したスパークスのパフォーマンスをリアルタイムで観て、後に自分のバンドを組んだ時にスパークスの曲をカバーしたアーティストがいる。さらにそれらバンドの曲をカバーしたものの、オリジナルはロンとラッセルが作った楽曲だとは知らなかったというバンドもある。ベックは映画の中で、スパークスは音楽界のミツバチのようだと証言している。スパークスは、いつでもどこにでも花粉をばら撒いて受粉しているのさ。

【関連記事】スパークスは50年のキャリアで何を歌ってきたのか?

From Rolling Stone US.




『スパークス・ブラザーズ』
公開表記:4月8日(金)よりTOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイント他全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
Twitter:@Sparks_Movie
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映画『スパークス・ブラザーズ』ジャパンプレミア試写会

2022年4月8日(金)の公開に先駆け、3月29日(火)にジャパンプレミア試写会の開催が決定。スパークスファンとして知られるスカート・澤部渡と、Rolling Stone Japan編集の小熊俊哉が、バンドへの愛を語りながら「スパークスとは一体何者なのか?」を探るトークショー付き。

こちらの試写会に、Rolling Stone Japan読者10名様をご招待します。

【概要】
映画『スパークス・ブラザーズ』ジャパンプレミア試写会
日時:2022年3月29日(火)
18:00開場/18:30開映(本編141分)/20:50終映
20:55頃トークショー開始/21:30頃終了予定
会場:ユーロライブ
住所:東京都渋谷区円山町1-5 KINOHAUS 2F
主催:株式会社パルコ
問い合わせ:株式会社スキップ 03-3437-3025

トークイベント登壇者:澤部渡(スカート)、小熊俊哉(Rolling Stone Japan)
MC:奥浜レイラ
プレゼント人数:10名様

【応募方法】
1)Twitterで「@rollingstonejp」「@Sparks_Movie」をフォロー
2)ご自身のアカウントで、下掲のツイートをRT

【〆切】
2022年3月17日(木)
※当選者には応募〆切後、「@Sparks_Movie」より後日DMでご案内の連絡をいたします。

Translated by Smokva Tokyo

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