『エイリアン』から『ホミサイド』まで 記憶に残る名優ヤフェット・コットーを偲ぶ

007シリーズ初の黒人の悪役を演じた

1973年、彼はロジャー・ムーアの初ボンド作品『死ぬのは奴らだ』で、シリーズ初の――そして今日に至るまで唯一の――黒人の悪役を演じた。原作に登場する悪党は、人種差別をデフォルメしたハーレムのギャング、Mr.ビッグ。映画版では、Mr.ビッグは架空のカリブ海国家の独裁者カナンガの別名だ。これは今でも大きな波紋を呼んでいる。またカナンガは、ボンドから口に圧縮ガス弾を押し込められ、文字通り風船のように膨らんで爆発するという、歴代のボンド悪役の中でももっとも取るに足らない死に方をしている。だがコットーの演技には、明らかに知性やキラリと光るところがある。Mr.ビッグという役柄やヴードゥー教、その他あらゆる虚飾がいかにばかげているかを心得、芝居の小道具として利用したかのうようだ。


『エイリアン』のシガニー・ウィーバー、ハリー・ディーン・スタントン、コットー(©20thCentFox/Everett Collection)

『エイリアン』では、コットーは宇宙船ノストロモ号――いわば未来の長距離トラック――の乗組員の1人、パーカーを演じている。シガニー・ウィーバー演じるリプリー以外の他のキャスト同様、パーカーもハラハラどきどきの展開を生き延びることはない。だが、ハリー・ディーン・スタントン演じるブレットとの信頼関係は、SF映画と労働者映画の融合ともいえる。パーカーがまさにエイリアンに殺される場面では、この怪物を止めるのは至難の業になるだろう、と観客は実感する。

コットーの話では、まさに『エイリアン』の撮影中に『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』のランド役が回ってきたそうだ。ちなみに監督のアーヴィン・カーシュナーは1977年のTVドラマ『エンテベ空港奇襲作戦』のイディ・アミン大統領役にコットーを起用し、彼にエミー賞ノミネーションをもたらした立役者だ。「地球に戻りたかったんです」と、2003年のインタビューでコットーはこう説明した。「(『エイリアン』の後)また宇宙映画をやったら、型にはめられるのではないかと恐れたんです」。俳優人生での立ち位置の心配から、彼は『スタートレック』ユニバースの仲間入りも果たせなかった。『新スタートレック』のピカード船長役を断ったことを後悔している、と本人も認めている。「私は人生でいくつか間違った決断をしたと思います。あの役は受けるべきでしたが、蹴ってしまった。映画をやっていると、TVのオファーを断りがちなんです。大学に進学して、高校のダンスパーティに誘われるみたいなものですよ。誰でもノーと言うでしょう」

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Translated by Akiko Kato

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