マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン『Loveless』 ケヴィン・シールズが語る30年目の真実

難航したレコーディング、楽器や機材を巡る幸運

ー結局、『Loveless』が完成したのは91年の9月でした。これほどレコーディングが難航したのは、主に何が原因だったんでしょうか。

ケヴィン:でも、アルバム制作のためにスタジオで過ごした時間という意味では1年と10カ月なんだよね。だからそんなに長いとは感じなかったよ。そのほかにEPの制作やツアー、フィードバックやシーケンサー他での実験に延々費やした妙な時期が3カ月ほどあったけどね。2枚のEPを僕たちは真剣に捉えていたし、単なるシングルでも、手っ取り早く作ったテキトーな曲をB面に入れたEPでもなかった。あれらのEP収録曲は、どのアルバム曲にも匹敵するくらいのシリアスさで扱ったんだ。だから、4曲入りEPとは言え、曲の扱いや接し方、制作の手間やその価値という意味では、アルバムをやるのと変わりなかったんだ。



ーレコーディングの難航は機材面での制約やスタジオでのトラブルも大きかったと聞きますが。

ケヴィン:っていうか、始めた時点では自分たちの機材すら持っていなかった(苦笑)。それが、僕たちの抱えた最初の問題だったんだ。トラブルに見舞われようにも、機材をそもそも所有していなかったわけ。機材購入の資金は出るはずだったんだけど、そのほとんどは実現しなくてね。だからどうなったかというと、僕たちはとにかく様々な機材を借り、スタジオにあったアンプ等を手当たり次第使ってアルバムを作り始めた。

ーそうだったんですか。

ケヴィン:でも、おかげでいくつか素晴らしい発見もあった。不運と幸運は常に隣り合わせってわけさ。僕はいつだってそうやって始めたし、僕のギター・プレイに対する姿勢もすべてそこから始まったんだよ。友人が(フェンダー・)ジャズマスターを貸してくれたことがあってね。それまで僕には大した機材がなくて、質の悪いギターをいくつかと小さなアンプしか持っていなかったから。で、彼は「お前、EPを作るんだろ? だったら俺の機材を使えよ」と言ってくれて、それが『You Made Me Realize』EPになったんだ。他人の機材を借りたおかげでトレモロ・アームのついたギターをプレイするチャンスが突然降って湧いたということ。本当に楽しめた。あれを使えば自分には何かを表現できる、できる何かを表現できるな、と思ったんだ。

『Loveless』を作った時も、制作開始時点での僕たちはわずかな機材しか持っていなかった。ところがスタジオにたまたまあったアンプのいくつかが60年代初期製の古いVOXアンプでね。あれは実にグレイトな、素晴らしいアンプだし、世界最高のアンプのひとつだよ。それで僕たちはあのアンプを使い始め、実際、あれが僕のサウンドで実に大きな役割を果たすようになった。『Loveless』のギター・サウンド面において非常に重要な部分を占めることになったんだ。さっきも話したように、自分の頭の中にアイディアがあって使い始めたわけではなくて、たまたま機会に恵まれたんだよね。これだと思うものを発見したし、それ以降は良い機材を見つけて借りるのに時間をかけるようになった。自分でやっと一台買ったのは、正直、2008年の再結成の時だった。

ーええ~そうなんですか。

ケヴィン:ああ。『Loveless』でVOXアンプは巨大な位置を占めているとはいえ、すべてレンタル機材だった。というか、あのアルバムで使ったどのアンプも、ほぼ全部が借り物だったんだよ。でも僕には機材やアンプについて知識があった。それまでに、借り物とはいえアンプは山ほど試してきたからね。だから、僕たちがあのVOXアンプを発見した時もむしろ、「ワオ! これは特別だ!」とわかった。これは本当にスペシャルなサウンドだと。クリエイション・レコードのやり方のひとつがそれで、彼らには僕たちのための機材購入用資金も、あるいは僕たちに支払うお金もなかったとはいえ、その代わりにやってくれたのがレンタル会社との間に信用貸しの関係を築く、みたいなことだった。だから、僕たちはいろんな機材をレンタルして、スタジオに持ち込むことができたんだ。

ーなるほど。ところでもし仮に今のようなDAWソフトウエアを中心としたコンピューター・レコーディングのシステムが完備されていれば、制作期間は短縮されたと考えますか。

ケヴィン:うーむ……それはないな。制作期間が長引いたのはレコーディング自体に問題があったからじゃなかったし、あまり時間はかからなかったから。レコーディング過程そのものはかなり楽だった。ただ、求めている通りのサウンドをモノにするとか、現場での良い雰囲気、あるいはヴァイブと言ってもいいだろうけど、そういったものを整えるのが難しい時がたまにあったということだ。そうしたテクノロジーが実際当時あったとしたら、きっと興味深いことになっていただろうとは思うけどね。

Translated by Mariko Sakamoto

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