甲斐バンドの70年代・80年代 新しい時代を切り開いた軌跡



二人きりの素敵な夜です。アルバム『この夜にさよなら』の中には、「そばかすの天使」という曲がありまして、夜の街の女の子なんですね。どこかネオンの陰に咲いている花というイメージがあって、MVは歌舞伎町のゴールデン街が舞台だったりもしてました。当時の中島みゆきさんに通じるような曲で、アルバム『誘惑』は、それまでの光と影の影の部分が見えるような恋の歌から、色っぽい大人の恋愛を感じさせる歌までが入ってますが、この曲は後者の代表的な1曲ですね。街角の恋愛からインドアな恋愛という変化も感じられたり。これも改めて聴いていると歌のテーマだけでなく、自分たちの音楽も新しくなったんだよ。カーテンを開けて、さあおいで。という新しい音楽の誘いへの歌にも聞こえました。

「そばかすの天使」もシングルになって、「氷のくちびる」もシングルになったんですが、あまりヒットはしなかった。オリコンは100位までの中で下の方に入っただけですが、アルバム『この夜にさよなら』はアルバムチャート14位。ロックバンドのアルバムは売れない時代でした。ダウン・タウン・ブギウギ・バンドの「スモーキン’・ブギ」も、先週の放送では当時売れていたロックとして挙げましたが、この1977年のチャートを賑わせていたのは、ダウン・タウン・ブギウギ・バンドのベスト盤が年間50位、あとは矢沢永吉さんのソロアルバム『ドアを開けろ』くらいですよ。ツイストがこの後出てくるんですが、まだバンドとしての全体像などは見えてませんから、こんな風に語れるところまで来ていませんでした。そして、こういうライブとアルバムで地固めしていたのが、1977年から1978年だったと言っていいでしょうね。その転機になった『誘惑』から「シネマ・クラブ」。



官能的なロックという感じですね。番組ディレクターがこの曲を聴いて、ブライアン・フェリーみたいですね、と言っていましたが、まさにその頃のイギリスのロックシーンとかデヴィッド・ボウイなどと同期しながら、日本の音楽を作っていた。さっきの「嵐の季節」と「シネマ・クラブ」には、先週お送りした『英雄と悪漢』、『ガラスの動物園』の中にあった青春の感傷、葛藤という感じではもうありませんね。大人のアルバムを作り始めているのが、この1977、1978年、そして大爆発の1979年です。

Rolling Stone Japan 編集部

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