ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスが語る、共作アルバムで描いた「悲しみと再生の物語」

 
『Utopian Ashes』の音楽的背景

その「Remember We Were Lovers」をはじめ、アルバムの楽曲は気高い美しさをまとっており、ときおり優しく、癒されるような瞬間もあったりする。だからこそ、このアルバムは絶望に終わらず、再びつながるかもしれない愛を示唆しているのだと思う。プライマルが『Give out But Don’t Give Up』で見せたようなカントリー・ソウルやフォークがここで展開されているが、人間的、音楽的な成熟も内包していてほろ苦く聴こえたり、甘美に聴こえたりもする。プレスリリースでグラム・パーソンズとエミルー・ハリスの『Grievous Angel』や、ジョージ・ジョーンズとタミー・ワイネットの『We Go Together』などのカントリー・ソウルに触発されたと書かれていたが、それも大いにうなずける。





「でも僕たちは、既存の曲をなぞるようなレコードを作ろうとは思っていなかったんだ。あくまでもオリジナルの音作りを目指していたし。ただ、プレスリリースにそう書いたのは、ジャーナリストにどんなタイプの音楽性を持つアルバムかっていう分かりやすい見本を示したのに過ぎないんだよ。トラディショナルな男女のデュエット・アルバム、というコンセプトを理解してもらうためにね。2017年の1月に僕とアンドリュー(・イネス)がパリに行って、ジェニーと彼女のボーイフレンドのジョニー・ホスティルと一緒にスタジオに入って、本当にごくごく簡単なアイデアを出し合った感じで始まったんだ。当初はかなりエレクトロニックな雰囲気でね。クラフトワークとか、そんな感じの。それでロンドンに戻って来て、頭の中にあった曲をアコースティック・ギターで弾いてみたんだよ。5曲くらい書いたところで、『ロックのアルバムを作るべきだな』って思ったんだ。アンドリューとデモを作ってみたんだけど、今のスタイルにすごく近い、ロック・ミュージックになった。もちろん、もっと原始的な感じではあったけどね。それをジェニーに聴いてもらって、『こんな風に作りたいんだけど』って言ったんだ。生演奏でレコーディングしたいことを伝えたら、『いいね、最高!』って言ってくれて。それでこういうサウンドになったんだよ」(ボビー)

「特にサウンド的なリファレンスについては話をすることはなかった。もちろん、多少はこんな感じの雰囲気で、っていう話はしたけれど。ボビーと私の声はすごくマッチしていると感じていたから、デュエット・アルバムというコンセプトはおもしろかったし、ボビーと私のハーモニーは、自分でも素晴らしいと思った。それがこのアルバムを作った最大の理由になる。ハーモニーというのは本当に心地良い体験で、ある意味人間にとって最も原始的なコミュニケーション術だと思う。2つの異なる振動がひとつになって、人と人とを結びつける感覚。とても心が温かになる感じがするし、強い力を持っている。私にはこういう歌い方もできるんだって、今回のプロジェクトが再確認させてくれたところもあったし、私にとっては大きな収穫にもなった。このアルバム以来、ちょこちょこ『Utopian Ashes』の時の歌い方を使うようになったから(笑)」(ジェニー)



ボビーの発言にあるようにアルバムにはプライマルのメンバー、アンドリュー・イネス(Gt)、マーティン・ダフィー(P)、ダレン・ムーニー(Dr)、サヴェージズやベスのソロでもコレボレーションしているジョニー・ホスティル(Ba)が参加。また、共同プロデュースとしてブレンダン・リンチがクレジットされている。ブレンダンはポール・ウェラーの『Wild Wood』や『Stanley Road』、オーシャン・カラー・シーンの『Moseley Shoals』、そしてプライマルの『Vanishing Point』などを手がけてきた90年代の英国を代表するプロデューサーだ。ここに挙げた諸作の音楽性を振り返ると、このアルバムのオーガニックなサウンドには最適な人選といえる。

「ブレンダンは優れたエンジニアであり共同プロデューサーでもある。特にバンドの生演奏をスタジオ録音するのがすごく上手なんだ。だから、このアルバムにぴったりだと思ったのは間違いないね」(ボビー)

 
 
 
 

RECOMMENDEDおすすめの記事


 

RELATED関連する記事

 

MOST VIEWED人気の記事

 

Current ISSUE