ボビー・ギレスピーとジェニー・ベスが語る、共作アルバムで描いた「悲しみと再生の物語」

 
「希望」と「破滅」のコントラスト

それにしても、『Utopian Ashes』というアルバム・タイトルは言い得て妙だ。愛し合い始めた二人が思い描いた理想郷が灰燼と化す。これ以上のタイトルはないだろう。

「僕の頭の中から生まれたのさ。アルバムのサウンドとコンセプトを詩的に表現できるタイトルはないかなって考えていて。それでいて、抽象的で聴き手に考える余白を与えるようなものにしたくてね」(ボビー)

「他にもたくさんタイトルの候補があったんだけど、テーマである“結婚生活の崩壊”や、破れた夢を的確に表すとても良いタイトルだと思う。そう、夢破れた後の余波というべきかな。だって、ここで描かれているのは始まりではなく、終わりのその後、すべての出来事を通り過ぎて来たあとの後遺症のようなものだから。燃え尽きたあとに何が残っているのか、ここからどう立て直していくのか。“ユートピア”という希望に満ちた言葉と、“アッシェズ”という破滅的な言葉とのコントラストがとても面白いと思った。ある意味、歌詞の持つダークさとサウンドの持つポジティヴさとを的確に表現したタイトルじゃないかしら」(ジェニー)


Photo by Sarah Piantadosi

現在、英国では南ロンドンを舞台にインディー・ロックやジャズの新鋭たちが群雄割拠し、イングランド北部やスコットランドではオーソドックスなギター・ロックやフォーク・ロックが勢いを取り戻そうとしている。このアルバムはそのどちらの流れにも属さないし、サウンドのアプローチも目新しさはない。ただ、ブレグジットやコロナ禍によって混沌とした社会情勢が続く英国のどこかの片隅で起きたドラマとして捉えると、俄然、その存在感と意義は変わってくる。我々はコロナ禍を通して、自分と向かい合い、また他者とのふれあいやコミュニケーションの大切さについてあらためて深く考えたはずだ。その答えのひとつが、この『Utopian Ashes』に見い出せると言っていい。コロナ禍の前にアルバムが制作されたことをボビーは教えてくれたが、ここで描かれる人間の葛藤は10年後、20年後も変わることはないだろう。そうした普遍性を美しいサウンドと共に突き詰めた傑作だ。





ボビー・ギレスピー&ジェニー・ベス
『Utopian Ashes』
発売中
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