スネイル・メイルの真実 USインディーの若き主役が語る「挫折と再起」

リバビリのあとに見つけたもの

2020年11月、リンジーはアリゾナにあるリハビリ施設で45日間を過ごしたが、自発的に入った訳ではなかった。「次のステップに必要だったのは、リハビリではなかったかもしれない」と彼女は振り返る。しかし、周囲の人間が彼女にはリハビリが必要だと判断し、リンジーも勧めに従った。

アリゾナでのリバビリ期間は、「つらい」と感じると同時に「発散」もできたという。彼女は毎日読書や乗馬をしたり、施設の「味気ない食事」を食べて過ごした。リハビリ中に感じた動揺は、ニューアルバムのハイライトのひとつと言える「Ben Franklin」に描かれている。“リハビリの後で自分がすごくちっぽけに感じてきた/あなたの優しさが恋しい/電話できたらいいのに”とリンジーは綴った。

リハビリ施設では、電話の使用が禁止されていた。そして退所後は、ソーシャルメディアに戻ることもなかった(彼女のアカウントは代理人が運営している)。「とても解放された気分」と彼女は言う。「自分がインターネット世界の人間になってしまったことで、わたしを取り巻く現実世界の人たちを苦しめていたことに、ある時点で気づいたの。わたしは、現実世界の人たちとだけ付き合って行きたかった。(インターネットの世界が)自分のメンタルヘルスに必ずしもいいとは限らない、と実感したわ。音楽を作って、世の中に出して、コンサートをする、という自分の仕事に集中すべきなのよ」


Photo by Josefina Santos for Rolling Stone, Hair and makeup by Kento Utsubo

リンジーの考え方は、ロードやラナ・デル・レイら最近の若きアーティストらにも共通する。特にワクサハッチーのケイティ・クラッチフィールドは2020年のアルバム『Saint Cloud』を出す前に、リンジーと同じく目を覚まして、ソーシャルメディアの使用を止めた。「彼女はわたしの親友」とリンジーは明かす。「週に3回は電話で話している。彼女はとても賢くて、精神的にとても頼りになる。わたしの理想とする人ね。アーティストとしての真髄を極めていて、一緒にいてエネルギーをもらえる。それ以外のことは、そんなに興味はない」

友人のケイティを通じて、『Saint Cloud』のプロデューサーを務めたブラッド・クックとも知り合いになった。リンジーはアリゾナの施設を出た後に、ノースカロライナ州ダーラムのスタジオでブラッドと会った。リンジーがスタジオへ持ち込んだデモ曲の大部分は、コロナのパンデミック前に、ニューヨークを離れて一時的にボルティモアの両親のもとに滞在していた時に書いた。少女時代を過ごした家で、ようやく彼女は『Valentine』に収録するための楽曲を形にできたのだ。「『Lush』を書いたベッドルームに帰って来て、リラックスできた」と彼女は言う。「一人で静かな時間を持てた瞬間に、曲が湧いて来た」

ニューアルバムを共同プロデュースすることになったブラッドからは、学ぶことも多かった。「多くのことに関われたおかげで、自分でも意識していなかったやり方で物ごとに対処できるようになった」と彼女は言う。

Translated by Smokva Tokyo

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE