キャット・パワーが語る名曲の再解釈、フランク・オーシャンや忌野清志郎への共感

カバーの選曲について

デビュー作の『Dear Sir』にもトム・ウェイツとディス・カインド・オブ・パニッシュメント(ニュージーランドの伝説的なポストパンク・デュオ)のカバーが収録されていたが、キャット・パワーにとって他者、あるいは過去の自分の楽曲を歌うことは、己のルーツと現在地を見つめ直すための通過儀礼なのだろう。

たとえば、ビリー・ホリデイの「I’ll Be Seeing You」は亡き祖母との思い出も詰まっているし、キティ・ウェルズの「It Wasn’t God Who Made Honky Tonk Angels」は、10代の頃にアトランタの自宅で見つけたカセットテープをきっかけに出会ったのだとか。時にタイトルも歌詞も大胆に改変する姿は、それぞれの楽曲が彼女の血となり肉となっていることのリアリティを何よりも裏付けている。『Covers』で選んだカバー曲の知られざるエピソードと、「自らの楽曲がカバーされること」の想いを聞いてみた。


ビリー・ホリデイの「I’ll Be Seeing You」は、愛する人に会いたい気持ちを歌った曲。『Sun』(2012年)のコラボレーターだった故フィリップ・ズダール(2019年没)や、最近亡くなった近しい人々を偲んでカバーしたという。


俳優のライアン・ゴズリング率いるデッド・マンズ・ボーンズのカバー「Pa Pa Power」。ショーンは「私のヴァージョンを聴いたあとで、ぜひオリジナルのヴァージョンも聴いてみてほしい」と語っている。

―「White Mustang」は友人でもあるラナ・デル・レイのカバーですね。あなたはラナの「LA to the Moon」ツアーをサポートし、2018年の前作『Wanderer』収録の「Woman」ではコラボレーションも実現していますが、彼女のどんなところに惹かれるのでしょうか。

その曲を選んだのは、ツアー中に私が彼女の曲を演奏したかったから。ラナと彼女のファンに捧げるために。オマージュみたいな感じ。彼女の魅力は、あの強さと芸術性。彼女が築き上げてきたあのキャラクターは素晴らしいと思う。彼女はアーティストらしく、アメリカのネガティブな緊張感をうまく表現していると思うわ。ラナは哲学とライティングを勉強していて、ものすごくスマートなの。暖かくもあるし、ひょうきんな人でもあるのよ。
この投稿をInstagramで見る

POPLOAD(@poploadmusic)がシェアした投稿

ラナ・デル・レイとキャット・パワー

―ザ・ポーグスの「Pair of Brown Eyes」は人生でもっとも好きな曲のひとつだとか。この曲との最初の出会いを聞かせてもらえますか?

大学のラジオから流れてきたとき、それを聴いて、私も彼の横に一緒にいるような気持ちになった。シェイン・マガウアンはこの世でもっとも優れたソングライターのひとりだと思う。



―癌で亡くなった友人に捧げたというボブ・シーガーのカバー「Against the Wind」は、力強いピアノとあなたの歌唱にすごく生命力を感じました。ショーンさんが特に好きな歌詞のフレーズはどれですか。また、それはなぜ?

特に好きな箇所? すっごく難しい質問!(笑)。強いて言えば、“I found myself alone”の部分かな。理由は、訊かれるまで考えたことがなかったけど、訊かれて最初に頭に浮かんだのがその部分だったから。

―イギー・ポップの「Endless Sea」を初めて聴いたのは、映画『ドッグ・イン・スペース』だったそうですね。彼とは「Nothin’ But Time」(『Sun』収録)でもコラボ済みですが、数あるイギーの名曲の中で「Endless Sea」をチョイスした理由を教えてください。また、この曲をカバーすることは事前に本人にも伝えたのですか?

映画であの曲がかかるシーンは、私の人生の一部なの。心に響くものがあって。バンドにちょっとあの曲をやってみたいと話して歌ってみたら、良い感じに仕上がったから使うことにした。イギーにカバーすることは伝えたけど、音源はまだ送ってないの。どうしてもヴァイナルで渡したいから待っていたのよね。でも、もう出来上がったから、これから送ろうとしているところ。


1986年のオーストラリア映画『ドッグ・イン・スペース』より、イギーの「Endless Sea」が流れるシーン。劇中では音楽ライブや薬物使用を含むパーティーの場面が多数描かれる。

―2曲目の「Unhate」は唯一のオリジナルで、「Hate」(2006年の『The Greatest』収録)を再構築したナンバーです。資料では「誰にでも荒れた時代はある/私はこの曲をあるべき姿に変えなくてはならなかった」と語っていますが、そのように心境が変化するきっかけとなった出来事は何ですか?

あの曲は、パンデミック前のツアーから演奏するようになったんだ。あれは自殺についての曲で、『The Greatest』までの私は自滅的で常に落ち込んでいたけど、私の人生はそこから変わり、セラピーを受けたりして立ち直ったの。今の私は、もう当時のような状態にはならない。だから『Wanderer』のツアーでオーストラリアにいてリハーサルをしていたとき、バンドのみんなにあの曲をどう変えたいかを伝えて、その当時から「Hate」を演奏するようになったわ。

―過去にも「In This Hole」、「Metal Heart」、「Song to Bobby」といった楽曲をセルフ・カバーしてきましたよね。オリジナルに強い思い入れを持っているファンも多いと思うのですが、あなたが過去のナンバーに再び手を加えるのは、年齢や経験と共に曲も変化し、成長するべきだと考えているからですか?

あまり意識して変えようとしているわけじゃない。昔の曲が今の自分の生活の中で再び出現し、それを再びプレイしようとすると、自然とそうなるのよね。逆に、昔のようにプレイして歌う方法が今の私にはもうわからないの。

―あなたが産み落としてきた楽曲もまた、多くのアーティストが愛しカバーしてきました。最近ではデペッシュ・モードのデイヴ・ガーンが「Metal Heart」を、アストラル・スワンズが「Cross Bones Style」を歌っています。そこでぜひお聞きしたいのですが、あなた自身が特に気に入っている「キャット・パワーのカバー」は、誰のどの楽曲ですか。

アストラル・スワンズがカバーしてくれたのは知らなかった(笑)。どうだった? デイヴのは素晴らしかった。プロダクションもパワフルで、すごく激しいと私は感じたわ。あと、名前を忘れちゃったんだけど、スカイ・フェレイラのボーイフレンド(※)のカバーを聴いたときも嬉しかったな。音楽コミュニティに受け入れられているというか、そんな喜びを感じたわ。

※スカイの元恋人、ザッカリー・コール・スミス率いるダイヴ(DIIV)のことだと思われる。


デイヴ・ガーン&ソウルセイヴァーズによるキャット・パワーのカバー「Metal Heart」は、2021年の最新アルバム『Imposter』に収録。デイヴは「他の人の声や歌を聴く……というよりも、その人の歌い方や言葉の解釈を聴くと、心が落ち着くんだ」と述べている。

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE