エネルギー超大国、ロシアの「暗い未来」

気候変動とウクライナ紛争の根源は「化石燃料」

これは、気候変動との戦いにおける新たな局面を示すものでもある。ロシア軍がウクライナに侵攻した瞬間、気候変動の科学と地政学がひとつになった。ウクライナの科学者スヴィトラーナ・クラコヴァ氏は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の会合(偶然にも、ロシア軍がウクライナ国境を越えた日に開催された)で次のように述べている。「人間が引き起こした気候変動とウクライナ紛争の根源は、どちらも化石燃料です」

気候変動危機の緊急性は、IPCCの最新の報告書によって裏打ちされた。ウクライナ侵攻と同じ週にこの報告書が発表されたことは、きわめて皮肉だ。報告書によると、「気温の上昇と異常気象の増加は(中略)取り返しのつかない影響」を及ぼすまでになった。熱波はより激しくなり、干ばつは深刻さを増し、山火事は頻繁に起きるようになり、海面上昇は加速している。こうした変化は「人道的危機を助長し」、あらゆる地域の人々が故郷から追いやられている。

ロシアもこうしたディスラプションから免れることはできないだろう。IPCCの報告書は、明白な事実を突きつける。北極圏の永久凍土の溶解は、ロシア史上最悪の自然災害を引き起こした。2020年には記録的な熱波がシベリアを襲い、それによって発電所用のディーゼル燃料タンクが倒壊し、ノリリスク付近の河川や湖に約2万トンものディーゼル油が流れ込んだ。人口17万5000人のノリリスクは、永久凍土の上につくられた西シベリアの都市だ。ロシア北部の永久凍土が溶けつづけると、建物を支える地盤の力が2050年には最大で3分の1まで減少する。これにともなうインフラの被害額は、1320億ドル(約15兆円)とも言われている。

予想通り、共和党員たちと、気候変動に手を貸す悪党たちと懐疑派の面々は、化石燃料から自立するのではなく、ますます依存するための口実として即座にウクライナ侵攻を利用した。彼らは、石油、ガス、石炭よりも優れていて安価な電力供給手段があるという明白な真実を意図的に無視したのだ。彼らにとって化石燃料は、テストステロンのようなものだ。フロリダ州のマルコ・ルビオ上院議員は、Twitterに「(バイデンによる)アメリカの石油とガスの戦争によってプーチンは力を増幅させた」と投稿した。サウスダコタ州のクリスティ・ノーム知事は、米FOXニュースに「(バイデンが大統領として)ホワイトハウスに入ったその日に、彼はプーチンにすべての権力を与えてしまった」と語っている。

当然ながら、これらはすべて戯言に過ぎない。「共和党員たちは、気候変動対策か安全保障のいずれかを選ばなければいけないと主張していますが、両立は可能です」と、オバマ元大統領のもとで国防長官補佐官を務めたシャロン・バーク氏は述べる。「(共和党の主張は)まったくの嘘です。気候変動政策がこうした問題を引き起こしているのではありませんし、政策はこの問題とは無関係です」。クリーンエネルギー事業の起業家からに政治家に転身したイリノイ州の民主党のショーン・カステン下院議員は、次のように述べた。「化石燃料インフラにもっと投資するべきだと主張する連中は、悪魔もしくは無知なのです」

Translated by Shoko Natori

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