ブロック・パーティーが語る、ギターロック復活の理由「音作りの旅が終わることはない」

 
『Alpha Games』制作背景とギターの挑戦

―2020年の1月にケリーはブロック・パーティーの新作を完成させるためにソロのツアーを延期することを発表していました。このことから、『Silent Alarm』再現ツアーが終わるやいなやバンドは新作に向けた曲作りをスタートさせたのではと想像しました。件のツアーを経て、それほど4人の創作意欲は高まっていたのでしょうか?

ラッセル:今回のアルバムは、ブロック・パーティーがこの新しいラインアップになって一緒に作る初めてのアルバムだったから、まずライブをやって、4人の間で起こる化学反応を深めたかったんだ。それをニュー・アルバムへの足掛かりにしたかった。僕らがアルバムを作る前にツアーをやった一番の理由はそれだったんだよ。だからツアーの間でも曲を書いたし、流れを壊さないために、ツアーが終わってもすぐに制作を再開したんだ。

ー制作はコロナ禍での作業になってしまったのではと思います。レコーディングはどのように進めていったのでしょうか?

ラッセル:ヨーロッパの最初のロックダウンの数週間前にライティング・セッションが終わって、さあレコーディングするぞ!って時にロックダウンが始まった。それでプランを変更しなければならなくなったけど、僕は、それは逆にアルバムにとって良かったと思ってるんだ。そのおかげでアイディアを振り返る時間ができたし、それを元にさらにライティング・セッションをやって、もっと曲を書くことが出来た。実際その中の数曲は、アルバムに収録されることになったしね。エクストラの時間が、音楽的に良い結果をもたらしてくれたんだ。



ー新作はポスト・パンク回帰とでもいうべきソリッドでアグレッシブなアルバムになりましたが、そうしたサウンドになった背景は?

ラッセル:まずはさっきも話したように『Silent Alarm』ツアーをやったこと。曲にはあのライブのエナジーが反映されていると思うし、ライブのオーディエンスに向けたサウンドが出来上がったんじゃないかと思う。そして、もう一つはパンデミックが影響していると思うんだ。皆家に引きこもらなければならなかったから、エネルギーが外に放たれないまま、たくさん溜まっていたと思う。あの時期のダークな部分が曲に影響したというよりは、曲を作ることで、自分たちが心の中に溜めて感じていたもの、持っていたものをドバっとリリースできたんじゃないかな。

―制作の初期段階でバンドが共有していたコンセプト、サウンドの方向性、完成イメージなどを教えてください。

ラッセル:ライブの中で生まれた4人の化学反応をとらえることくらいかな。今回のアルバムと比べると、前回のアルバムはすごくスタジオ・アルバムだったし、あのアルバムはほぼケリーと僕で曲を書いたけど、今回のアルバムでは初めて4人全員で一緒に曲を書いたから。特にドラマーのルイーズ(・バートル)はドラムやパーカッションでものすごいエナジーをもたらしてくれた。それがすごくよかったから、それを元に、その上に他の要素を乗せていって曲を作ったんだ。彼女のドラムは、今回のアルバム制作の原動力になったと思う。


ラッセル・リサック、2022年3月撮影(Photo by Burak Cingi/Redferns)

ー新作『Alpha Games』を聴いてまず驚いたのは、あなたのギターのフレーズ/サウンドの多彩さです。本作においてギタリストとして意識した点は?

ラッセル:僕は、アルバムを作るたびに何か違うこと、これまでに試したことのない何かに挑戦するようにしてるんだ。僕のメインのモチベーションやインスピレーションは、シンセは使わず、ギターを使うことは変えないまま、何か新しいサウンドを作ること。レコーディングの時もそうだし、アルバムとアルバムの間の期間もそうだし、いろんなサウンドやエフェクトを試して新しいアイディアを溜めておくんだ。だから、今回のアルバムに限らず、全てのアルバムが新しく特徴的なサウンドを持っていて、それが他のアルバムとの違いを際立たせていると思う。今回も、ギターエフェクトやペダルを駆使してユニークなサウンドやトーンを作ったつもりだよ。

ーなかでも「Traps」の終盤でのチェーンソーのようなサウンドや、「Sex Magik」の空間的でサイケデリックな音作りが印象的でした。あなたにとって、今回の作品で〈このギターサウンドを作れてよかった〉と思えるものといえば?

ラッセル:僕が今回のアルバムで気に入っているのは、「The Girls Are FIghting」。あの曲はスパークスっぽくて、曲のメインのパートは80年代のシンセ・サウンドに聴こえるんだけど、あれは全部ギターなんだ。曲の真ん中ではギターソロもあって、そこがすごくシャープでグリッチングのエフェクトがたくさん使われている。あのギターソロはすごく存在感があると思うし、自分でも気にいいっているんだ。唯一、ロックダウンの間に自宅でレコーディングしたパートだしね。アイディアを思いついたから、とにかくそれを試してみたくなってレコーディングした。そしたら皆がそれを気に入ってくれたから、レコーディングしなおさずにそれをそのまま使うことにしたんだ。



ーあなたのギターサウンドのおもしろい点は、それがギターミュージックだけにインスピレーションを受けたものとは到底思えないところです。どんな音楽、あるいは音楽以外でもどんなものから刺激を受けているのでしょうか?

ラッセル:もちろんギター以外からもインスレピーションは受けているよ。10代の頃は友達と皆でギターを練習していたけど、僕らはみんな感覚が似ていて、一緒に新しいサウンドを探求していた。競争みたいな感じで、バンド同士で互いをあっと言わせるサウンドを作ろうと皆必死だったんだ。そうなってくるとギターの影響からだけではインスピレーションが十分じゃなくなって、他のものからもインスパイアされるようになっていった。例えば今だと、ビデオゲームや映像なんかからも影響を受けている。それがギターで作られたサウンドでなくても、何かエキサイティングな新しいサウンドを見つけると、それをどうやってギターで作り出すかを考えるんだ。それはすごく楽しいし、僕はそのチャレンジが大好きなんだよ。

ーちなみに、あなたにとってのギターヒーローといえば誰が挙げられますか?

ラッセル:誰だろう(笑)。最近で言えば、イギリスのバンドのエヴリシング・エヴリシング。彼らは最高のバンドで、彼らもギター・サウンドの可能性を押し広げていると思うから。素晴らしいギタリストがいるすごく良いバンドなんだ。

ー『Hymns』以降、イギリスのシーンではギターバンドが復権している印象です。近年登場したバンドであなたのお気に入りがいれば教えてください。

ラッセル:アイドルズはめちゃくちゃクール。『Alpha Games』のプロデューサーが彼らのアルバムもプロデュースしているんだけど、そっちのアルバムも最高なんだ。あとはウェット・レッグ。彼女たちはあっという間にヒットして、今すごく活躍している。それからスポーツ・チーム。最近彼らと一緒にショーをやったんだけど、彼らもクールだよ。




ー最近は良いバンドがたくさん出てきていますが、イギリスのシーンにおいてはロック・バンドやギター・バンド不遇の時代が長く続いていたように思います。

ラッセル:そうそう。人々の音楽の消費の仕方が変わってきたから、バンドとして活動をすることが以前より断然難しくなったからね。音楽の消費のされ方から変わった分、人々の音楽の作り方も変わってきた。人数が多ければ多いほど活動を続けるのが難しい。だからバンドが減ってきているんじゃないかな。今の時代、一人で曲を作って活動した方がずっと楽だからね。家で全部作れるし。それはそれでいいと思うけど、やっぱり人と人が作用し合って出来るもの、人と人との間で起こる化学反応の特別な良さってあると思うんだよね。自分以外の誰かと作業していると予想もしなかった何かが生まれる時もあるし、その可能性は一人で作業しているよりもずっと多いと思う。だから、良いバンドが出てきたり、存在してくれているのってすごく嬉しいことなんだ。この流れで、これからもっと増えていくといいんだけどね。

ー過去に、いい加減ギターに飽きたと思う瞬間はありましたか?

ラッセル:飽きたことはないな。アイディアが浮かばなかった時期はあったけど、逆にアイディアを持ちすぎていた時期もあるし(笑)、アイディアが浮かばなくても、前から溜めているアイディアを使えばネタがきれることはないしね。エフェクトやペダルとギターの組み合わせ方は無限にあるから、サウンド作りの旅が終わることはない。自分がまだ試したことのない組み合わせや音の出し方は、まだいくらでもある。僕にとってギターの世界は、ネバー・エンディング・ストーリーなんだ。

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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