「ジャズ」という言葉を葬ろう シオ・クローカーが語るレッテルと黒人差別の歴史

 
ルーツは音楽のなかに隠されている

―さっきハウス・ミュージックという言葉が出ました。ハウスがアフリカン・アメリカン由来の音楽であることは、ヒップホップなどに比べてなかなか言及されてこなかった印象があります。そこに言及するジャズ・ミュージシャンとなれば、なおさら少ないですよね。改めて、アフリカン・アメリカンにとってのハウスという文脈で話を聞かせてもらえますか?

シオ:ハウスもブラック・ミュージックの起源から引っこ抜かれて、地球の向こう側にその起源があることにされるか、もしくは起源が隠されてしまった例だよ。その後、ロンドンやベルリンで独自の発展を遂げたのは間違いないけど、ハウスはデトロイトやシカゴの工場で働くブラック・ピープルによって作られたんだ。実際、ファクトリー・ミュージックだ。でっかい自動車工場のような音がするだろう、聴けばわかるよ。

僕はジェフ・ミルズとかムーディーマンの大ファンだ。彼らの音楽は昔からのアフリカン・アメリカンの伝統なんだよ。プリンスの音楽にもハウスの要素があると思う。(ザ・タイムの)モーリス・デイの音楽にもファンクとハウスが同居していたよね。(シュガーヒル・ギャングによる)14分の「Rapper’s Delight」だってそうだ。ディスコはブラック・ダンスミュージックに対するコマーシャルな、マーケティング上の反動にすぎなかった。つまり、そういう音楽は常に存在していたってことさ。でも(ブラック・)コミュニティから生まれたものは、コミュニティから引き抜かれてしまう。ジャズが持っていかれたらファンクが生まれて、ファンクが持っていかれたらハウス・ミュージックが生まれた。ハウスが持っていかれたら、ヒップホップ、ラップ、R&B……。

いずれにせよ、こういった音楽はすべてマーケティング以外の正当な理由もなく、個別のものにされ、カテゴライズされてきた。アーティスティックな観点からしたら、それは作り手とミュージシャン、リスナーを分断させただけだ。それぞれ別のレッテルが貼られているから、リスナーは「こっちは聴くけど、あっちは聴かない」ということになってしまう。「ケニー・Gが嫌いだ」と思うリスナーは、サックスを持つ黒人がジャケットに映ってるだけでパスしてしまう。カマシ・ワシントンが出てきて、ケンドリック・ラマーのようなストーリーテラーと共に、若いリスナーのサックスに対する考え方を変えさせるまでね! つまり、コミュニティに(ブラック・ミュージックが)取り戻されれば、世界も無視できなくなるということ。だって、心揺さぶり、スピリチュアルで、その一部になることを楽しみ、参加するための音楽なわけだからね。



―最後の質問です。『Love Quantum』のタイトル曲では、スポークンワードのなかに星座や宇宙のモチーフが入っています。今作のボーナストラックは「Sun Ra」というタイトルですが、サン・ラは土星人を名乗っていました。あなたは過去にも「世界中に残っている星から来た人たちの伝説」をテーマにした『Star People Nation』というアルバムを発表していますが、ゲイリー・バーツにも『Libra』(てんびん座)や『Another Earth』というアルバムがありますし、マイルス・デイヴィスやウェイン・ショーター、メアリー・ルー・ウィリアムスも宇宙や星座をテーマにした音楽を作っています。こういった話はあなたの音楽とも深く関わっているかと思いますが、いかがですか?

シオ:ああ。アフリカン・アメリカンは奴隷制によって、自らの歴史のなかから引っこ抜かれてしまったことを忘れちゃいけない。アメリカにおける植民地主義の侵略より前にも、ムーア人の歴史があり、アフリカにはアメリカ以前にもヨーロッパに支配されてきた歴史がある。でも、そういった歴史は僕らには教えられない。実際にエジプトに行って、自分はどこから来たのかと改めて考えることになる。自分にそっくりな顔で体型も似ている人たちを見て、自分の本当の祖先は誰なのかと考える。一旦目覚めたら、(アフリカン・アメリカンたちは)自分の真のアイデンティティを探し始めるんだ。僕らがこの国(アメリカ)から教えられてきたことはストーリーの全容じゃないからね。それに僕らが取り返したカルチャーがあったとしても、それは古いカルチャーのあくまでも断片にすぎない。それこそまさに植民地主義の話だよね。

だから、占星術や精神を学び、自己のパワー、真の先祖を知ろうとすることとは、僕らの先祖が何を理解していたか、世界がまだ何もなかった時にアフリカ大陸には何が存在していたのか……そこに立ち戻ることで、アメリカの奴隷制から始まる歴史以上の「自分」を手に入れることなんだ。アメリカ人のひとりの有色人種としてそれに目覚めたら、まずETのように「家」に電話をしたくなる。自分には与えられないし、簡単には手に入らないようになっている自分の起源。それを知るには情報を集めるしかなくて、その多くは音楽のなかにコード化されて隠されている。だからこそ(ジャズは)パワフルなんだ。19世紀の変わり目に、人はそれを演奏していた。ヴァイブレーションを高め、自由になるために。人々を心のなかだけでも解放し、祖先やホームランドとのつながりを思い出すためにね。だからこそのあのリズム、あの即興演奏、あのコール&レスポンス、あのパーカッシブさなわけで、文字通り、人々の魂を揺さぶり起こしたんだ。だからこそ、それは「Jass」という軽蔑的な名前をつけられ、キリスト教の観点から「近づいてはならないもの」として恐れるべきものに仕立てられたんだよ。

僕のアルバムは、『Another Earth』も『Star People Nation』も『Escape Velocity』も、結局はどれもマインドを突き破って、より気高い自分自身をいかに知るかってこと。アートを楽しむというのは、突き詰めればそういうことだよ。君の質問に直接的には答えてないかもしれないけど、たぶん大事なことは答えられてるんじゃないかな。




シオ・クローカー
『Love Quantum』
2022年7月20日国内盤リリース
BSCD2 ボーナス・トラック2曲収録
再生・購入:https://SonyMusicJapan.lnk.to/TheoCroker_LOVEQUANTUMRJ

日本公式ページ:https://www.sonymusic.co.jp/artist/theocroker/profile/

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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