ハドソン・モホークが語る、無邪気で自由なビートメイクとサンプリングの裏側

 
サンプリングの美学、ニューアルバムの制作背景

―本作でサンプリングしている「I Pray」「For Your Glory」「Redeemed」や、引用した「Soon as I Get Home」は、切り取った歌詞や原曲の曲名そのものにメッセージが込められているように思います。歌詞も吟味したうえでサンプリングしているのでしょうか。

HM:特別に意識したわけではないけど、僕はいつも、自分の音楽をポジティブにしようとは考えているというのはある。僕自身が好きな音楽もポジティブな音楽だから、それをサンプルすることで、自分の音楽もポジティブになってるんじゃないかな。例えばゴスペルとかさ。自分の音楽に高揚感をもたせたいから、高揚感のある音楽をサンプリングしようと頭の中で自然に意識している部分はあると思う。

―また、プレスリリースには「本作はアメリカの退廃を背景にしている」とありますが、作った曲は希望を探し出そうとしているのではないのかなと受け取りましたが、いかがでしょう。

HM:世界中の誰もがここ数年すごくタフな日々を過ごしているよね。そしてその中でも、特に大変な思いをしている人たちもいる。それが今すぐ改善されるわけではないからもしれないけど、その辛い時期の中でも希望を持つことはできる、というのを伝えたかったんだ。希望や、励みのようなものを辛い中にも見出してみよう、というメッセージをね。



―そもそもサンプルから曲を組み立てる手法を採り入れ続けるのはどうしてなのでしょう。それこそ作曲する上では楽器と違ってコントロールにしくい部分もかなりあるのではないでしょうか。

HM:今回のレコードは、実はそんなに沢山サンプルを使っているわけではない。でも、サンプルというのは、エレクトロニック・ミュージックやエレクトロの文化の基盤となる要素だと僕は思う。今日の朝、レーベルから電話があって、サンプルに対する苦情を言われたんだけど、そんな風に、サンプルは、時にはものすごくめんどくさくもある(笑)。時にはっていうか、法的にはいつもだね(笑)。でも僕は、サンプルを使ってヒップホップやラップのビートを作ることはやめないと思う。それは僕の音楽に対するアプローチの基盤だからね。あと、それだけじゃなく、さっきも言ったように、エレクトロニック・ミュージックの基盤でもあるから。お金がかかるしめんどくさいから、サンプルを使うことをやめる人たちが増えているのは残念だよね。でも、最高のサンプルを見つけたら、やっぱり使うべきだと僕は思う。素晴らしい曲を作るためには、それはやっぱり必要なんだよ。

―一方で、大胆なサンプリングに自由であることの開放感や面白さも感じます。「Some Buzz」でどうして2曲を繋げようと考えたのでしょうか。

HM:僕がサンプルを使う時は、そのサウンドを元のサウンドとはまったく違う方向に連れていくことは意識している。オリジナルから変えないってことは殆どないね。「Some Buzz」で2曲をつなげたのは、僕が今回のアルバムをDJミックスみたいな作品にしたかったから。僕はDJとしてキャリアをスタートさせたから、結局いつもそのアプローチを求めているんだと思う。今の時代って、アルバムを順番通りに聴く人は殆どいない。プレイリストを聴いたり、スキップしたりするから。僕は人がどうやって音楽を聴くかをコントロールすることはできないけど、僕自身がどうやって音楽をプレゼンするかをコントロールすることはできる。だから、このアルバムでは繋がりや流れにすごくこだわってるんだ。2曲が1曲になったようなトラックもあるし、流れっていうのがすごく大切だったんだよね。聴いている人にも、上昇したり下降したり、違うムードを楽しんだり、その音楽の旅を楽しんで欲しいな。

―「Redeem」はライブ録音の音源をサンプルとして使うというのも衝撃でした。チャド・ヒューゴとこの曲を作ることになったきっかけは?

HM:どうだったかな。とにかく僕がずっと彼の大ファンだったんだ。彼は本当に沢山の素晴らしいポップソングを過去20年にわたって出がけてきた人だからね。ネプチューンズは常に僕のお気に入りのプロデューサーだったし、20年前の時点ですでに変わったサウンドで大成功していた。ノーマルと真逆のことをやりながらも成功できるっていうのは、僕にとっては本当に大きなインスピレーションだった。だから、僕はずっとチャドと一緒に何かを作りたいと思っていたんだ。それが実現できてすごく嬉しい。どういう流れだったかハッキリとは覚えてないけど、たしかチャドが、僕の友達の友達だったんだと思う。で、僕自身はオープンなんだけど、人にアプローチするのがすごく苦手だから、その友達か誰かがうまくとりつくろってくれたんじゃないかな(笑)。


Photo by Jonnie Chambers

―「Bow」はヘヴィーなトラックの上でクラレンス・コーヒー・ジュニアがまるでカーティス・メイフィールドやファレルのように歌っていますが、どんなイメージで作られたのでしょう。また、スクラッチでクレジットされているDj JeffMillsShoesは何者でしょうか(笑)。

HM:僕がLAの街を歩いていた時、偶然メタルのギグに出くわした時があってね。その音がすごく奇妙で、それを聴いた瞬間に、良いサウンドだなと思った。そこですぐにボイスメモを作って、メタルだけど変わったサウンドを作るって書いたんだ。それが、あの曲のドラムになった。あの曲のドラムは、すべてそのアイディアから生まれたんだよ。で、友達のクラレンス・コーヒー・ジュニアとある作業のために一緒にいた時、彼はポップ・ライターだからいつもはデュア・リパなんかの曲を作ってるんだけど、その時にそのドラムに合わせて僕たちが冗談半分で作った音が、かなり良かったんだよね。本当は違う作品のために作業していたんだけど、偶然すごくいいサウンドが出来上がった。そこで、今はとにかくこれを絶対に仕上げたほうがいいって話になって、作業を続けたんだ。Dj JeffMillsShoesなんて人はいない(笑)。あれは僕たちが勝手に作った架空の人物だからね(笑)。

―「Lonely Days」はフェイス・エヴァンスの歌をサンプリングして引き延ばしたものかと思いました。この曲をティーケイ・マイザが歌った上でエフェクト処理をした経緯は? また、ストリングスがかなり印象的です。ハドソンがアレンジしたものを演奏してもらったのでしょうか。

HM:まず、彼女は本当に素晴らしい。あの曲って全然R&Bっぽくないけど、だからこそ、僕はあの曲にR&Bっぽい声が欲しいなと思っていたんだ。ほぼオーケストラっぽい曲にR&Bの声を乗せたら面白いと思ってさ。彼女とは友人で、他の曲の作業を一緒にしていたんだけど、結果的にあの曲にも参加してもらうことになった。ストリングスは、僕の友人が演奏してくれていて、もともと彼女が演奏したものとあの曲で聴こえるストリングスのサウンドは同じじゃない。彼女が演奏したストリングスを僕がサンプリングしたんだ。

―「Is It Supposed」や「Rain Shadow」のような明るくて軽快なダンストラックはティガやダニー・L・ハールとのコラボでハッピー・ハードコア的な音楽に触れたことも影響していますか。

HM:ハッピーなサウンドというのは、コラボの前からすでに僕の音楽の要素のひとつだったと思う。僕がリスナーとして子供の時に最初に好きになった音楽もそういう音楽だしね。だから、自分の音楽はそういった明るいサウンドに常に影響を受けているんだ。さっきも話したように、トラックを作る時は高揚感のあるポジティブなサウンドを作ることを意識しているから。

―「3 Sheets To The Wind」のサンプルソース「Cry Sugar」をアルバムタイトルに決めた理由を教えてください。

HM:アルバムタイトルはなかなか思いつかなかった。でも、さっき、世界の暗い状況の中に希望を見出したいと話したけど、”Cry”と”Sugar”というふたつの言葉がそれを表していると思ったんだ。涙は出る状況だけど、その中になにかスウィートなものが存在しているような、そんな感じ。



―終盤は太いキックとビートメイクとキラキラしたシンセワークがハドソンらしさ全開で、サーシャ・アレックス・スローンの歌う「Come A Little Closer」はとりわけ感動的です。この曲をアルバムのクライマックスに置こうと思ったのはどうしてでしょう。

HM:DJセットだったら、これを最後にプレイするだろうなと思ったから。このアルバムは、僕にとってDJセットを作品にしたようなアルバムだから、流れがすごく自然になってる。でも、絶対この曲がラストに来るべきだと特別に思ったわけではないけどね。

―本作のゲストの人選はネームバリューなどは関係がなく、あくまで自然なように感じます。楽曲を作る上でどのように決まったいったのでしょうか。

HM:僕の場合、ビッグ・ソングを作る目的で誰かとコラボするわけじゃないんだ。それは僕がしたいことじゃない。僕がゲストに求めるのは、そのアーティストたちの曲やサウンドが好きだから。僕は、誰か有名なアーティストとコラボができたとしても、その曲が自分が好きだと思える作品でないのなら、そのコラボに意味はないと思う。そういうコラボををするよりは、自分自身に正直でありたい。僕はいつも、自分が正直でいられるアーティストにゲストとして参加してもらっているんだ。

―早くも先の話になりますが、今作が自由に楽しんで作っているように感じたので、次作は意外と時間がかからないのではと思うのですが、いかがでしょう。

HM:まだだね(笑)。まずはティガとのアルバムを仕上げないと。その次はTNGHTのアルバムだな。ソロアルバムはまた7年後かも(笑)。




ハドソン・モホーク
『Cry Sugar』
発売中
国内盤CD:ボーナストラック追加収録、解説書封入
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12883


スクエアプッシャーJAPAN TOUR [振替公演]
SPECIAL GUESTS:ハドソン・モホーク(DJ SET)、真鍋大度
2022年10月25日(火)梅田 CLUB QUATTRO
2022年10月26日(水)名古屋 CLUB QUATTRO
2022年10月27日(木)渋谷 O-EAST
2022年10月28日(金)渋谷 O-EAST
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12883

Translated by Miho Haraguchi

 
 
 
 

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