アメリカにだって建前はある。マリファナ販売店で超理論に遭遇

ロウワーイーストサイドのGranny Za's Dispensaryにて。「家庭がある人にはグミが人気だね。誰だって子供のいる前でモクモク煙焚きたくないだろ」。そりゃそうだ。

中年ミュージシャンのアメリカ放浪記、今回はニュースでも耳にするようになった大麻合法化にまつわるお話です。ニューヨークはいまそのプロセスの真っ最中。その状況は日本社会でよく出会う脱法行為に似ているそうで……。

※この記事は2022年9月24日発売の『Rolling Stone JAPAN vol.20』内、「フロム・ジェントラル・パーク」に掲載されたものです。

7月から8月にかけてちょうど50日間、日本に滞在していました。いろいろあったものの滞在中に「ああこれぞ日本らしさだな」と思ったのは、物見遊山に出かけた飛田新地とパチンコ店でした。どちらも友人に「いまのうちに見ておいたほうがいい」と言われてノコノコ見に行ったんですけど。

説明の必要もないと思いますが飛田新地は現存する最大級の遊郭で、「ウェイトレスさんが個室に料理を運んできたら、たまたま客と恋に落ちて、たまたまセックスが発生してしまった」から売春ではないんですよ、という建て付けで、真っ昼間から公然と売春が行われています。そんな超理論で押し通せるあたりがジャパンよね。

かたやパチンコは台の面積の大半が液晶画面になっており、人々は大型の「へえボタン」みたいのを連打していて、つまり釘とかパチンコ球とかって存在は完全に形骸化しているんだけど、「出た玉を謎の景品に交換したら、たまたま黄色い看板の古物商が近所にあって、たまたま謎の景品を買い取ってくれた」ので賭博ではないんですよ、という建て付けを堅持するだけのために、パチンコ球という存在が維持されているのでした。

根っからの臆病症のためどちらも見学だけにとどめておきましたが、こういったアクロバティックでヌルっとした理路はとても日本ぽいし、もっと言えばアジア的なのではないのかな、と胸にしまってアメリカに帰ってきたところ、自宅から目と鼻の先のところにマリファナの販売店がオープンしていました。

いまNYは娯楽用大麻の合法化に向けたプロセスのまっただ中にあります。2017年、キングス郡(ブルックリンのこと)のゴンザレス検事が娯楽目的であっても大麻の所持や使用では起訴しないと宣言、いわゆる非犯罪化というやつです。次いで2019年にはマンハッタンでも2オンスまでの所持では逮捕も起訴もしないという方針が決定されました。

非犯罪化されたといっても違法は違法、たとえば1オンス所持なら100ドルの違反切符を切られるはずなのですが、実際に取り締まられることはほとんどなくなりました。なぜかというと大麻所持による逮捕というものが長い間、警官が気に入らない黒人をなんとなくしょっぴく際の口実として用いられてきた経緯があるからです。

2018年の調査でNY市の人口比率は黒人24%、白人は43%。大麻の使用に人種間で有意な差は認められないため、逮捕者の人種構成もこの比率に似てしかるべきです。でも2017年の発表によると、大麻所持で逮捕された者のうち黒人は48%。いっぽう白人は9%しかいませんでした。この人種差別的な運用が問題視されたことが、非犯罪化への大きな推進力になりました。

そしてそして2021年3月にはクオモ知事(当時)の肝入りで、21歳以上なら娯楽用に大麻を栽培・販売・所持できる、いわゆる合法化法案が可決。同年9月には大麻管理局が設置され、販売や栽培に関するライセンスが発行されることになった、んですが、実際のところはこの管理局がまだグダグダで、ライセンスが発行されるのは来年以降と言われています。

となるとこの家の前にできたディスペンサリーは何なのだ? その謎を解明するため、調査班はアマゾンの奥地へと向かった――。そこで出くわしたのが、たぶんこの時期にしか体験できない、欺瞞に満ちたおもしろロジックだったのでここで紹介しておきたいと思います。

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