田中宗一郎が語る、拡張するダンス音楽

TikTokというプラットフォームが生んだ、ピンクパンサレス以降のドラムンベース

ー先ほどSoundCloudを舞台にジャンルのクロスオーバーが進んだという話があったように、近年はインターネットもひとつの現場になっています。特にパンデミック以降はそういった状況が加速しました。インターネット上におけるダンスミュージックの動きとして、今注目しているものはありますか?

田中 やはりTikTokですか(笑)。ただ、地上波の音楽番組で紹介されるような日本語圏から見える世界線とはまた別のTikTokというか。TikTokは動画投稿とソーシャルメディアを組み合わせたプラットフォームなので、その明確な使い方が決まっているわけではありません。ここでの15秒間の音と映像という制約を通して、ダンスミュージックもまた自ずと変容しているのが見て取れます。やはり一番わかりやすいのはピンクパンサレスですね。ベッドルームプロデューサーとして出発した彼女は、TikTokというプラットフォームを通して世界中の10代の少女たちが暮らすベッドルームに語りかけている。

ー英国90年代のチル音楽やIDM、ベッドルームテクノの新たな形であり、彼女はベッドルームという新たな現場を作ったんだ、と。

田中 TikTokでは、メイクアップ動画のBGMとしてドラムンベースの曲がよく使われるというのも象徴的です。元々ドラムンベースというのは、英国のカリブ移民のレゲエコミュニティから生まれた音楽。その厳しい生活の現実から週末のひと時だけ解放されるために必要とされた音楽でした。しかし、ピンクパンサレスはそういう文脈とはまったく別のところで、bpm174前後のドラムンベースや、bpm130後半の2ステップがブルーでムーディな気分を表現するのに適していることを証明した。今ではそうした動きをすかさずキャッチしたSpotifyが作ったプレイリスト「Planet Rave」を通じて、ヤズ、ピリ&トミー・ヴィリエ――主に女性のプロデューサーたちが次々と発見され、もはや新たなジャンルが生まれたという趣きさえあります。




ピンクパンサレス

ーピンクパンサレス以降のドラムンベースに代表される、近年のダンスミュージックの変容については、インターネット以降のプラットフォームの特性ということ以外に、何か理由はあるのでしょうか?

田中 Z世代以降のY2Kリバイバル全般とクロスオーバーしているところはあるのかもしれません。彼らやジェネレーションαにとっては、90年代やミレニアム前後のカルチャーというのは社会がいまだ豊かで、今より遥かに平穏だった時代の象徴なのかもしれない。無理矢理こじつけるとするなら、Z世代の一部が環境に配慮するという政治意識から新品の洋服ではなく古着やリメイクや古着を着たりすることと、ピンクパンサレスが自分が生まれる以前のドラムンベースや2ステップを参照した音楽を作っていることは、自分達が経験したことのないノスタルジアの具現化という線で結んでやることも出来るかもしれません。いずれにしろ、今現在、再定義されつつある90年代のダンス音楽がこれから先、どんな風に進化していくのかについてはとても興味があります。



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