ドライ・クリーニングが拡張させた、ソニック・ユース的音響と妖艶な詩世界

フローレンス・ショーが紡ぐ妖艶な詩世界

ロンドンあるいはブリストルの街を散策しながら思い浮かべた言葉が元になっているというフローレンスのヴァースは、テーマが目まぐるしいスピードで変化していく。ジョークや公案、論争、ナンセンス等が次々に放たれる呟くようなボーカルスタイルに神経を集中させていると、一部のリスナーは向精神薬のボトルに手を伸ばしてしまうかもしれない。聴き手の関心を惹く目的で、彼女はことあるごとに同じフレーズを独特の方法で繰り返す。今作では前作『New Long Leg』の時のようにメモやノートから引用するのではなく、彼女はスタジオで即興で言葉を紡いでいったという。前作と比べると、『Stumpwork』に見られる言葉の羅列にやや一貫性が見られるのはそのためだろう(“ヴァージニア・ウルフを恐れているのは誰?”というラインは見事だ)

「Anna Calls From the Arctic」における「何ひとつ成立しない/何もかも高すぎる/曇っていて独占されてる」というフローレンスのラインは、息継ぎを挟むことなくこう続く。「靴の整理に便利なやつが届いた/神様ありがとう」。家族とはぐれてしまった亀についての曲「Gary Ashby」で、フローレンスは「私抜きで背中にしがみついているの?」という疑問を口にする。「Hot Penny Day」では「男性による暴力が蔓延している」とした上で、「綺麗な顔、柔らかさ/『ビッグ・ソフト・ベッド・クラブ』を思い出す」と続いている。タイトルトラックに見られる「私は自分の行動の決定権を持っていない」というラインは、彼女の複雑な思考回路の説明であるようにも思える。

印象的なフレーズは他にもある。「私のゲーム用マウスに触らないで、ネズミの分際で」(「Don’t Press Me」)。「あなたのお尻は見たけど、口は見てない」(「No Decent Shoes for Rain」)。「春巻きのためならゆっくりと死んでいく覚悟がある」(「Liberty Log」)。脱文と混沌に満ちた彼女の言葉は一貫してユーモアのセンスを感じさせ、聴き手を不快にさせることはない。




アルバムの最後を飾る「Icebergs」からは、彼女の考えをはっきり読み取ることができる(彼女なりの「Everybody’s Free (To Wear Sunscreen)」というべきか)。「幸せで刺激に満ちた人生を送りたいのなら、周囲で起きていることに関心を持ち続けるべき/子どもの持つ好奇心を失わないで」。かと思いきや、「蘇生器」という何の脈絡もない言葉が続く。

フローレンスは所々で歌声を披露しているが(特に「Driver’s Story」)、ドライ・クリーニングの言葉とサウンドは、それぞれが独立して機能してこそ真価を発揮する。ポエトリー・リーディングとポストパンクの組み合わせという観点ならば、ライバルというべきウェット・レッグに軍配が上がるかもしれないが、ドライ・クリーニングがユニークな存在であることは疑いない。バンドは(キング・ミサイルのように)ストーリーの全貌を明らかにすることも、フローレンスが紡ぐ言葉を祝福することもない(パティ・スミスが自作の詩に対してそうしているように)。4人は単に、ディスコ・ピクルスの関心を自分たちに向けさせ、石鹸にくっついた陰毛のサウンドの下劣な美しさを伝えようとしているだけだ。

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From Rolling Stone US.




ドライ・クリーニング
『Stumpwork』
発売中
日本盤CD:解説・歌詞対訳付き、ボーナストラック2曲追加収録
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12859


Dry Cleaning Japan Tour 2022
2022年11月30日(水)東京・恵比寿LIQUIDROOM
2022年12月1日(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,000(スタンディング、ドリンク別)
詳細:https://smash-jpn.com/live/?id=3774

Translated by Masaaki Yoshida

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