Wet Legが挫折から得た学び「もう若くないなら、時間切れなバンドをつくればいい」

ウェット・レッグ(Photo by Terna Jogo)

 
デビューアルバム『Wet Leg』で全英1位を獲得し、来年2月に東名阪で初来日ツアーを行うイギリス・ワイト島出身のデュオ、ウェット・レッグ(Wet Leg)。パンデミックの最中に立ち上げたプロジェクトが爆発的な人気を博し、世界中のインディーロックファンの心をとらえた彼女らだが、一時は音楽業界でのキャリアを諦めかけていたという。2022年を象徴するバンドの成功物語に迫った、ローリングストーンUK版のインタビューを完全翻訳。

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ウェット・レッグのリアン・ティーズデイルとへスター・チャンバースは、バンドが彼女らの日常生活を変える、ましてやウェット・レッグの楽曲が世間の耳に届くなんて考えもしなかった。こうした発言は、多くの新人アーティストが一様に口にする謙虚さを装った言葉のように聞こえるかもしれない。だが、ウェット・レッグにとっては紛れもない真実なのだ。彼女らにとってウェット・レッグというバンドは、音楽フェスの無料チケットを手に入れるための手段だった。


左からへスター・チャンバース、リアン・ティーズデイル(Photo by Terna Jogo)

デビューシングル「Chaise Longue」のミュージック・ビデオは、2000年代にUKインディーロックを聴いて大人になったノスタルジックなミレニアル世代と、本物のギターミュージックをつくるアーティストの再来を喜ぶもっと上の世代に歓迎されてネット上で話題になった。この成功は、ふたりにとって嬉しいサプライズだった。カントリー風の世界観と歪んだユーモアは、いまの時代にうってつけだった。そこに誰もが家の中に閉じ込められたまま一年でもっとも気候が良い季節が過ぎ去り、夏の恋の訪れを虚しく待ちつづけていたという社会状況が重なった。ウェット・レッグのデビューシングルは、世の中のやや調子外れなムードを見事にとらえたのだ。



ワイト島という田舎で生まれ育った親友ふたりがいかにも楽しそうにしている様子は、ウェット・レッグの最大の魅力だ。だが楽しいかどうかはさておき、島で暮らしながら自分を楽しませるために何かをしていたあなたが、たった一曲を機に気づくと「UKでもっともエキサイティングなバンド」として注目を浴びたとしよう。そんな時、あなたはどうする? その答えを知るため、私たちはワイト島の海岸沿いに立つホテルの客室の寝室にいる。ベッドの上には、ウェット・レッグの写真撮影用の衣装が入った複数のスーツケースが広げられ、外では温帯低気圧「ユーニス」が猛威を振るう。ベッドの反対側では、リアンが遊び半分でボンネット(あごの下でひもを結ぶ女性用の帽子)をかぶり、赤ん坊のような無邪気な笑みを浮かべた。かたやへスターは、赤と白のロングワンピースを試着して、何かを待つように髪を弄んでいる。彼女は静かに口を開く。その姿はまるで妖精のようだ。彼女は、高く柔らかい声で自分よりも社交的な親友の助言を求めた。表面的なコメントとは一切無縁のリアンは、「いかにもあなたらしい!って感じではないかな」と言う。

「私らしいって何だろうね」とへスターはつぶやく。それから一拍おいて、へスターの姿を見た人々の「カワイイ~!」という黄色い声が室内に響いた。


Photo by Terna Jogo

反対側の客室で写真撮影を行う時間になると、へスターは寝室の壁からずるずると力なく滑り落ちた。撮影は大の苦手だそうだ。私たちは、子供を叱るよりも嫌な後ろめたさを感じる。天使を地獄送りにしているような気分だ。

バルコニーやベッドの上でのウォームアップ撮影を終えると、ソーシャルメディア用の動画撮影に入った。へスターがささやくようにしゃべるため、心優しいリアンは彼女の音量に合わせて自分の声も小さくした。風変わりな掛け合いがあったり、言葉に詰まった相手に変わって言葉を締めくくったりと、ふたりはまるで一心同体だ。写真撮影が続くにつれて、衣装あるいは計画されたロケ地のいくつかが気に入らないという事態が発生する。ふたりとも温厚でおしゃべりだが、ここには島特有のテンポがある。ウェット・レッグの世界では、めまぐるしいペースを決めるのは本人たちなのだ。

Translated by Shoko Natori

 
 
 
 

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