アークティック・モンキーズはどこへ向かう? No Buses近藤大彗らとバンドの現在地に迫る

 
2. アークティック・モンキーズに塗り替えられた音楽人生
近藤大彗(No Buses)


近藤大彗(こんどう たいせい:写真の一番右)
No Busesのギター/ボーカル。バンドは2016年結成。2022年9月に3rdアルバム『Sweet Home』をリリース。ダウナーながらも煌びやかにサウンドを彩るメロディやストイックなビートのバンドサウンドを武器とする。2020年よりソロ・プロジェクト=Cwondoを本格的に始動、2022年7月に3rdアルバム『Coloriyo』をリリース。


アークティック・モンキーズの音楽と出会ったのは高校1年生のときでした。その頃、音楽に詳しい従兄弟が自分の家にしばらく居候することになって。まだONE OK ROCKくらいしか聴いてなかったけど、僕も音楽に興味を持ち始めた時期で。従兄弟のiTunesライブラリを勝手に覗いたら、アークティックは「A」だから割とすぐ表示されたんですよね。ちょうど『AM』(2013年)が出るくらいの頃で、彼らの写真をいろんなところで見かけていたりしていたので気になったんです。

それでしばらくして、近所のTSUTAYAに行ったら、「洋楽ならこれを聴け」みたいなコーナーでレッチリやミューズ、ストロークスなどと並んで、アークティックの1st(2006年の『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』)が面陳されていて。とりあえず片っ端から借りてみて、自分に一番刺さったのがアークティックでした。

特に1stは、まだそんなに音楽を掘っていない自分にもリーチするような、単純にかっこいいと思える魅力がありますよね。ギターもキャッチーだし、スピードも速くて、あの疾走感がグサッときたのかもしれない(笑)。もちろん、今聴いても洗練されているというか、単にわかりやすいだけでもない。



そこからすっかり夢中になって、他のアルバムも順番に聴き進めていきました。自分の転機になる音楽を見つけられたのが嬉しくて、ずっと聴いてましたね(笑)。音楽を聴くうえでのシグネチャーみたいなものが一つ確立されたような感じがして、そういう意味で音楽を聴くことに意識的になったというか。それに、音楽を始めるきっかけとしてもすごく大きかった。

高校2年でギターを買ってからは、家でひたすらコピーしました。アークティックは一通りコピーしたので、今は忘れてしまった曲もあるかもしれないけど、たぶんほぼ全曲弾けると思います。パワーコードが多くて弾きやすかったんですよね。2nd(2007年の『Favourite Worst Nightmare』)は特にそうで、単音で押さえられたり弾きやすいフレーズの曲が多い。難しいコードが弾けなくてもギターを弾いた気になれるのが楽しくて、何度も練習することで自分のなかに刷り込まれていって、そういう面でも好きになりました。No Busesのメンバーもみんな好きで、大学時代にコピーバンドをやったりもしましたね。



「No Buses」というバンド名は、もともと仮で付けたものなんです。先にライブが決まってバンド名を決めようとなったとき、自分たちでは悲惨なものしか思い浮かばず(笑)、好きなバンドの曲から拝借しようと。それで、字面もバンド名っぽいし、いわゆる代表曲でもないし(2006年のEP『Who the Fuck Are Arctic Monkeys?』収録)、曲調もメランコリックで好きだったからちょうどいいなと思って。そして、そのまま変えるタイミングを見失ってしまい現在に至ると(笑)。

でも実は、「アークティックみたいな曲を作りたい」と思ったことはないんですよね。それなりにギターが弾けるようになっても、あんなふうにはなれないなって。そういう意味で、バンドサウンドというよりは、アレックス・ターナーの歌心に影響を受けているのかもしれない。アルバムだと4作目の『Suck It and See』(2011年)、曲でいうと「Only Ones Who Know」(2nd収録)や「Piledriver Waltz」(4th収録)みたいに、歌がフォーカスされている作品が特に好きなんです。




だから、今回の『The Car』はすごく好きですね。本人たちが意識しているのかわからないけど、「歌を聴くアルバム」という印象を受けました。ここまでアレックスが感情的に歌っているのを初めて聴いたというか。今作ほどまで息遣いを感じたことはなかった気がします。

『Suck It and See』の頃はもっとバンド的だったけど、今作ではアレックスが歌うメロディと呼応するようにオーケストレーションが躍動している。それに、歌に深みをもたせるためだと思うんですけど、難しいビートを叩いてないですよね。過去作を遡ると、アレックスは声をビートにバチバチ乗せていて、そこで綺麗に韻を踏んでいたのが、3rdの『Humbug』(2009年)辺りから歌っぽくなってきた。そういう歌への意識が『The Car』では最高潮に達していて、なおかつ他の作品でも聴いたことがないようなメロディになっている。だけど、その歌を彩るバンドサウンドは、懐かしさを覚えるくらいアークティック節が効いたフレーズが出てくるので、不思議なバランスだと思いました。

バンドサウンドという点では『AM』でひとつの区切りを迎えたあと、前作の『Tranquility Base Hotel & Casino』からは「どういう質感を選ぶのか」を追求している感じがします。ラスト・シャドウ・パペッツとしての活動もあったので、そういった作風に踏み込むのは予想できなくもなかったけど、「他でやってるんだから、このバンドでやる必要はない」とはまったく思わないです。ラスト・シャドウ・パペッツではマイルズ・ケインのスウィートな作風が強調されているのに対し、現在のアークティックはアレックスらしいメランコリックな雰囲気に落とし込んでいて、バンドの色味はしっかり保たれていますからね。

アレックス・ターナーという人は、冷たくそっけないようで、どこかチャーミングというか。クールに振る舞いつつ、隙をちゃんと見せてくれる。彼のメロディもそういうところがあるし、今作にもそれは感じました。


写真の一番下がアレックス・ターナー(Photo by Zackery Michael)

『The Car』で特に好きな曲は、2曲目の 「I Ain’t Quite Where I Think I Am」。『AM』の雰囲気もありつつ展開がすごくて、今作を象徴する一曲だと思いました。今のアークティックっぽいと思ったのは、7曲目の「Big Ideas」。最後の「Perfect Sense」は個人的な好みで、単純にめっちゃいい曲だなと。

あと、アークティックはB面曲がいつも素晴らしいんですよ。「Suck It and See」B面曲の「Evil Twin」はいわゆるアークティックらしいギターリフに乗っかる軽やかなボーカルの揺らし方がいいとこ取りで、『The Car』とも少し近い感じがします。前作のB面曲「Anyways」もよかった。『The Car』の曲もこれからシングルカットされるのかもしれないし、そうだとすれば楽しみですね。

今後もアルバムを作ってくれるのだとすれば、次はどこにフォーカスするのか気になりますね。質感なのか、ボーカリゼーションなのか、バンドサウンドなのか。すでにここまで完成されているのに、さらに「その先」を期待したくなる。本当にすごいバンドだと思います。(取材:小熊俊哉)

【関連記事】アークティック・モンキーズが語る『THE CAR』の進化、ギターの探求、The 1975への回答






アークティック・モンキーズ
『THE CAR』
発売中
詳細:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12971


アークティック・モンキーズ
過去タイトル全作が紙ジャケ・高音質UHQCDの新装盤で再発決定

初回生産盤はロゴ・ステッカー封入、数量限定Tシャツセットや日本語帯付きLPも発売

●2023年1月20日(金)リリース
1st『Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not』
2nd『Favourite Worst Nightmare』
3rd『Humbug』

●2023年2月17日(金)リリース
4th『Suck It and See』
5th『AM』
6th『Tranquility Base Hotel & Casino』

商品詳細:https://www.beatink.com/artists/detail.php?artist_id=2663



No Buses
『Sweet Home』
発売中
配信:https://orcd.co/sweethome
購入:https://lnk.to/nb_sweethome



No Buses 3rd Album Release Tour 2022 “Sweet Home”
2023年1月9日(⽉祝)名古屋CLUB UPSET

年末調整GIG 2022
2022年12月10日(土)名古屋 THE BOTTOM LINE

砂上の楼閣37 ツイーディ ネフュー カムズ アロング フィーバー
2022年12月11日(日)新代田FEVER

JOHNNIVAN『GIVE IN!』RELEASE PARTY
2022年12月15日(木) 渋谷WWW

『UBC-JAM Vol.34』
2023年1月14日(土)渋谷WWWX

No Buses公式ホームページ:https://www.nobusesband.com/shows/733/

 
 
 
 

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