tricotが語る、海外ツアーの成果とアルバム『不出来』の充実度

アイデアの断片をすくい上げる

─では、今度リリースされるニューアルバム『不出来』についてお聞かせください。まず、このユニークなタイトルはどうやって付けられたのでしょうか。

中嶋:思えばtricotはコロナ禍に入ってから、アルバムも含めて音源をめちゃくちゃ出してきました。ライブができないのもあって、ずっと曲作りをやってきたのですが、そこで結構溢れていた曲たちが溜まってきていて。まだデモにすらなっていない、アイデアの断片なども60曲以上あって、「もったいないな」とずっと思っていたんです。

もちろん新しい曲を作るのも楽しいし、「その時の自分たち」を記録する意味でも大事なことですが、これまでボツになってきた曲の中にもいい曲はたくさんあるんですよね。ちゃんと完成させたらどんなふうに聞こえるのか、単純に興味がある曲もたくさんあるし。それを実行するなら、『上出来』というタイトルのアルバムを出した後、つまり今しかないのかなと思って。しかも『不出来』というタイトルも使えるじゃないですか。

─確かにそうですね(笑)。

中嶋:これまでテーマやコンセプトを決めてアルバム制作をしたことがなかったので、「アルバムから漏れた名曲たち」というくくりで作ってみるのも面白いかなとも思いました。アルバムの選から漏れた曲のことを、よく「ボツ曲」というじゃないですか。言葉としてはネガティブな響きだけど、たまたまその時に作っていたアルバムの方向性に合っていなかったり、アルバムに収まりきれず泣く泣く外したりした曲もたくさんあって、それ自体はすごく良い曲の場合もあるんですよね。私たちには、そういう「アルバムから漏れた名曲」がたくさんあるので、『不出来』というアルバムはあと5枚くらい作れると思います(笑)。

─あははは。

中嶋:レコーディングの順番でいくと、まず「エンドロールに間に合うように」や「アクアリウム」のようなタイアップ曲を書き下ろして、そのあと「ボツ曲」を基に「#アチョイ」「鯨」の順に蘇らせていったのかな。







─個人的には「鯨」が最も好きな曲なのですが、これはどうやってできましたか?

中嶋:5月か6月だったかな、その頃の私は5日に一度の割合で良くないことが1カ月くらい続いたんですよ。家族全員がコロナにかかってしまったり、知り合いが亡くなってしまったり、家に不審者が現れたりして。「こうなったらもう、今起きてること全部次のアルバムのネタにしてやろう」と思っていました(笑)。「鯨」は私が「東京のお母さん」と慕っていた方が亡くなってしまい、そのことについて書いた曲です。



─11曲目「不出来」の歌詞も、“君を生かすことができなかった世界なんて本当カスみたいだ”“君の描いた曲が今日も私を生かしているの 許してね”とあり、ひょっとして亡くなってしまったアーティスト、それもイッキュウさんと交流のある人に向けて書かれた楽曲なのかなと。

中嶋:亡くなったアーティストさんのことを思い出して書いた曲です。この曲を作ってた時期がちょうど命日あたりで、悲しいニュースも立て続けにテレビでやっていて。不出来というアルバムなら今回はこんなことも書いて良いかと思いました。



キダ:これも「エンドロールに間に合うように」や「アクアリウム」と同じく「ボツ曲」ではなく、ヨーロッパツアーから戻ってゼロから作りました。海外ツアーをしたことが影響しているのかどうか、なんとなくジャキッとしたギターサウンドを鳴らしたい気分だったんですよね。結果的にUKっぽい仕上がりになったかなと。

─「不出来」はベースもUKオルタナ感が出ていますよね。

ヒロミ:それこそ2000年代のオルタナバンドを意識しながら音色を作ってみました。ちょっとダサいくらいの感じでもいいかなと思って弾いていたのですが、結果的にアルバムの中でも特にお気に入りの楽曲になりましたね。ライブでやるのも気持ち良さそうだなと。

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