ブルー・ラブ・ビーツが語るアフロビーツの真髄、文化の「盗用」と「リスペクト」の違い

 
文化の「盗用」と「リスペクト」の違い

―「BLUE NOTE PLACE」でのライブを見させてもらいましたが、お2人はライブでもアフロビートやハイライフ、アフロビーツをうまく表現していました。ロンドンではそういう音楽を演奏できる場所って結構あるものなんですか?

NK-OK:ここ1年半くらいはそういうセッションができる場所が特に増えてきたね。でも、僕はロンドンじゃなくて、ナイジェリアやガーナに行って、そこで何かをやるってことをもっと増やしたいと思ってる。もちろんお金がかかるから簡単には行けないんだけどね。だから、もっとビッグネームの人がそういうことをやってくれると、アフリカの現地のプロデューサーやミュージシャンの知名度も上がるし、彼らにクレジットを与えることもできるのになって思う。僕にはガーナの血が流れているし、ドラム・プログラムもやるんだけど、現地に行ってキルビーツとやってみたら「僕はやらなくて大丈夫です」と思ってしまった。ガーナの音楽に関しては彼の領域だし、彼が現地で何年も培ってきたものだとわかったから、自分は一歩引いた立場でやることが大事だなって感じたんだよね。

―現地のプロデューサーとのエピソードをもう少し聞かせてください。

Mr DM:ガーナのクラブシーンをこの目で見ることも目的のひとつだったんだよね。

NK-OK:だから、ゲットー・ボーイ(Ghetto Boy)に連れて行ってもらったんだ。夜の11時に行こうと思ったら「今から少し寝る」って言われてね。夜中の2時半くらいになって「まだ行かないの?」って言ったら「じゃ、そろそろ行こうか」って準備を初めて朝の4時くらいになってしまった。でも、着いたらそんな人が多くなくて「5時くらいにならないと人が集まらないよ」って。実際に人が増えて、それで朝の10時くらいまでパーティーが続いたんだ。そのときは平日だったから「週末はどうなの?」って聞いたら「週末は次の日の昼の1時までやってるよ」って(笑)。

DJがプレイするのはアフロビーツ、アマピアノ、アフロビート、ハイライフ、アメリカのR&B、ヒップホップ、グライム、ドリルとなんでもって感じ。びっくりしたのは16小節か32小節でどんどん別の曲に変えていって、4、5分おきに別のジャンルに変わってるみたいな感じ。すごい体験だったね。


ガーナのDJ、DJ Aromaによるパフォーマンス


ゲットー・ボーイとブルー・ラブ・ビーツのコラボ曲「Blow You Away (Delilah)」

―今日は「現地を見た方がいい」「現地を尊重する」という話がすごく印象的でした。お2人からはリスペクトも伝わってきますし、文化盗用にならないように現地のミュージシャンと一緒にやったり、彼らの名前をクレジットすることにすごく意識的ですよね。そういう姿勢も『Mother land Journey』の魅力に繋がっているのがよくわかりました。

NK-OK:僕らは「これ好きだな、よし試してみよう」ってことを自由にやってきた世代なんだよね。面白いと感じたら何でもやっていいって感じで。でも、他の文化に関わる際はその時にそこにある意味について考えて、きちんと理解しようとしなきゃいけないと思う。例えば、コーンロウもそれによって奴隷たちが逃げるための暗号のように道筋を編み込んだって話がある。そういう経緯を知らずにファッションだけで取り入れるのは違うと思うんだ。だから、もし僕が日本のジャズをやりたいなと思ったら、それをサンプリングしたりするだけじゃなくて、お互いのトラックの中で演奏したりできたらいいなと思う。文化が違うものに関しては、ルーツを理解したうえで、感謝して、リスペクトしてからやる必要がある。

―実際にガーナに行ってみて、そういった黒人の文化に関して特にインスパイアされたものがあれば聞かせてもらえますか?

NK-OK:歴史的な場所を体験できたことだね。エルミナ城っていう場所があって、そこはアフリカから奴隷として連れていかれる人たちが囲われていた場所なんだ。ガーナの血が流れている自分だけじゃなくて、黒人だったらこれを現地で見るのはエモーショナルな部分で感じるものがあるよね。

Mr DM:エルミナ城は(ガーナを訪れた)目的のひとつだったから、首都のアクラから3時間かけて行ったんだよね。

NK-OK:西洋にいて教えられる黒人の歴史って奴隷から始まっていて、それ以前の歴史はなかったもののようになっている。せいぜいあっても、船で連れてこられて、その船旅が大変だって話くらいだったりね。実際のアフリカには、マンサ・ムサ(※)のようなビル・ゲイツよりも巨額の富を持っていた人もいた。そういう話も学ぶことはできない。アフリカの話はせいぜいローマ帝国の話の中に少し出てくる程度だったりして、結局は白人の歴史が中心なんだ。

※14世紀にアフリカで最も裕福だったマリ王国の王。豊かな文化や洗練された教育を育んだと言われている。

だから、自分としては実際の黒人の歴史を知りたかった。今だったらインターネットでなんでも見られるけど、現地に行って体験するってことが重要だと思った。エルミーナ城だったら、ここでどんなことが行われていたかを知りたかった。例えば、ここのドアの先に行ったら二度とアフリカには戻ってこられなかったって事実を深く知って、感じることができたことが僕らにとって重要だった。

そういう意味で、ガーナの滞在の95%は楽しかったけど、5%は辛かったんだよ。実は子供の頃にもエルミナ城に行ったことがあった。でも、その頃の自分には事実をきちんと受け止める準備ができていなかった。今回はようやく自分のこととしていろんなものが入ってきた。エルミナ城の中には第二次世界大戦中に、黒人たちが「人の盾」として前線に立たされるためのトレーニングをさせられるスペースもあった。黒人が奴隷として送られる人たちがいた場所だったところが、その後、黒人が戦争の捨て駒のように使われるためのトレーニングのための場所になった。僕らはそういう悲惨さをきちんと学びに行ったんだ。




ブルー・ラブ・ビーツ
『Jazztronica - Live at Late Night Jazz Royal Albert Hall』
再生・購入:https://Blue-Lab-Beats.lnk.to/Jazztronica

Translated by Kyoko Maruyama

 
 
 
 

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