メガデス『破滅へのカウントダウン』 デイヴ・ムステインが語る30年目の真実

メガデスの急成長と先見の明

そんなことがあったにしろ、ムステインが思い出すのは楽しい雰囲気と、バンドが持っていた明確なミッションだ。それまでのメガデスの作品は、高度な楽器演奏能力とヘッドバングできる楽曲にフォーカスされていたが、『破滅へのカウントダウン』では、楽曲を作り上げる巧妙さに重点が置かれた。ムステインのトレードマークである唸るような歌声に加え、「狂乱のシンフォニー」ではブルージーなギターリフが織り込まれ、さらに当時のベーシスト、デヴィッド・エレフソンが拍動するベースラインを思う存分発揮できる空間も作られた。さらに、映画『影なき狙撃者』にインスパイアされた歌詞の中で、ハーメルンの笛吹とマリオネットがカオスに向かって揺れ動く様子を歌うだけの余裕も持っていた。不安の歌である「スウェッティング・ブレッツ」では、スイングする汗まみれのグルーヴが中断され、ムステインのユーモア (“こんにちは、俺。また俺がやってきたよ”)が最後まで貫かれて、良い変化球となっている。



このアルバムを通して、相変わらずメガデスの演奏能力はピカイチだ。ドラマーのニック・メンザが叩く「スキン・オー・マイ・ティース」でのオープニングのドラムフィルや、リード・ギタリストのマーティー・フリードマンが奏でる「アッシュズ・イン・ユア・マウス」での驚愕のソロを聞くと、それがよく分かるのだが、特筆すべきはメジャーなロックラジオ局で流せる楽曲となっている点だ。

80年代のムステインは社会政治的な対立や衝突について皮肉を込めた楽曲を作っていたが(「ピース・セルズ」「フック・イン・マウス」)、『破滅へのカウントダウン』では、対象となる範囲をさらに広げた。破られたことで有名なジョージ・H・W・ブッシュの選挙公約「私の唇を読め、増税はしない」が挟まれている「フォアクロージャー・オブ・ア・ドリーム」は、当時の崩壊した農業を歌う、まるでヘヴィメタル版ファームエイドのようでもある。その一方で、タイトルトラックでは、檻に入れられた絶滅危惧種の狩猟に金を出す裕福層を激しく非難している。この曲が動物の権利を広く知らしめることに貢献したとして、メガデスはヒューメイン・ソサエティのドリス・デイ音楽賞を受賞しており、ムステイン曰く「動物の友人たちの保護」だそうだ。

楽曲「破滅へのカウントダウン」の中盤で、近所の寿司レストランで働いていたフリードマンの友人が、当時のエコロジー的ファクト、つまり“今から1時間後、地球上から生命体がまた一つ消滅する、永遠に、そして生物が消滅する確率は上がる一方だ”と朗唱する。最近、メガデスの最新アルバム『ザ・シック、ザ・ダイイング…アンド・ザ・デッド!』用に楽曲「キリング・タイム」を作りながらシロサイの運命を考えていたというムステインは、今でもこのコンセプトに圧倒されると言う。「あれから30年を経た今になって、どれだけ多くの生物が消滅したのかを実感できるようになったよ」と。

Translated by Miki Nakayama

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