betcover!!がついに明かす飛躍の理由、驚異の創作術、海外からの眼差し

betcover!!の柳瀬二郎(Photo by Riku Hoshika)

betcover!!の首謀者、柳瀬二郎との数年ぶりとなるインタビューが実現。作詞作曲における信条と底知れぬ音楽的ルーツ、シーンを震撼させた4thアルバム『卵』の制作秘話、国内外から熱視線を集めるカルトバンドの現在地をたっぷり語ってもらった。

本物というのは面構えから違う。柳瀬二郎と初めて会ったときの鋭い眼光は今でも忘れられない。彼が2019年にメジャーデビュー作『中学生』を発表したとき、ダークでありながら遊び心を感じさせる音像、切迫感に満ちながらもドリーミーな詩世界にたちまち魅了された筆者は、柳瀬の作る音楽が何もかもひっくり返すのではないかと期待した。そこから少し時間はかかったが、betcover!!は孤高のロックバンドとして、今の時代に珍しいアウトローとして、唯一無二のポジションを築きつつある。

2020年の2ndアルバム『告白』を最後にcutting edge(avex傘下のレーベル)を離れた柳瀬は、DIYで音楽活動を再スタートさせることを決意。新しい仲間との出会いもあり、betcover!!は当初のソロプロジェクトから5人編成のバンドへと拡張される。翌年発表の3rd『時間』は、極端に振り切ったアンサンブルを鳴らす起死回生の一作となり、国内のみならず海外でも絶賛され、これまでを大きく上回る評価と手応えをもたらした。その後も勢いは止まることを知らず、昨年12月に届けられた4th『卵』は、米最大手の音楽コミュニティ「Rate Your Music」の2022年年間ベストアルバムで、ケンドリック・ラマーなどを退けて(!)日本人アーティスト最上位となる13位にランクイン。さらに、圧倒的なまでの怪演でライブバンドとしてもその名を轟かせており、今年2月に渋谷WWW Xで開催されたワンマン「画鋲」東京公演のチケットは即日完売となった。

このように快進撃を続けてきたbetcover!!だが、『時間』以降はインタビューの掲載が途絶えていたため、その動きはずっと謎に包まれていた。このまま一ファンとして行く末を見守ることもできただろうが、彼らが誰よりもユニークな音楽を作っている確信があるのに、声一つかけずにメディアの仕事を続けるなんて嘘にも程がある。覚悟を決めてインタビューを打診すると、実にあっさりOKの返事をいただき、柳瀬が指定してくれた喫茶店で落ち合うことになった。そして、「音楽の話がしたい」という彼と2時間以上も話し込んだ結果、16000字という大ボリュームのQ&Aになったが、アーティストとしての哲学と信条、創作のノウハウから影響元に至るまで、濃密なエピソードがいくつも明かされている。柳瀬が『卵』でめざしたサウンドと同じように、自分としても目先のインパクトだけを狙うのではなく、長く参照されそうな記事を作りたかった。

betcover!!はこのあと2月〜4月に初の全国ツアーも控えている。今の5人が放つ凄まじさを、ぜひとも自分の目で耳で確かめてほしい(詳細は記事末尾にて)。


Photo by Riku Hoshika

失われたエロスと想像力を求めて

―過去のインタビューも読み返してきましたが、柳瀬二郎は昔から尖ってたなと。

柳瀬:普通に喋ってると音楽の話にならなくて。10代の頃とか気合いが入りまくってたから悪口をかなり言ってましたよね。もう怖くて読めない(苦笑)。自分に自信がなかったのもあるし、周りのことをすごく気にしてたんですよ。もともと神経質なところがあるので、いろいろ全部気になっちゃう。その頃に比べると、今はムカつかなくなりましたね。自分のことに集中できるようになりました。

―2019年頃はあらゆるインタビューで、自分の音楽がシティポップと括られたことへの不満をぶち撒けていたけど、今はそんな誤解をされることもなくなったんじゃないですか。

柳瀬:なくなりましたね。でも、「〜っぽい」とかは永遠に言われ続けるので。僕たちのことをわかってくれているコメントは嬉しいですよ。でも、中には「そうじゃないんだけどな」っていう意見もある。前作の『時間』を出したとき、「ゆらゆら帝国っぽい」とめちゃくちゃ言われて。まったく意識してなかったのに。

―よく見かけるかもしれない。

柳瀬:ゆらゆら帝国はすごく好きだけど、「ゆらゆら帝国っぽい」と言われるとそうかな?って。ただもちろん、聴く人によって聴こえ方は違いますからね。海外の人からはキング・クルールっぽいと言われてるし、そこもまた文化の違いで面白いなって。

―でも実際、ゆらゆら帝国がそうであったように、柳瀬くんも音楽やそれ以外のカルチャーを深く掘り下げてきたはずで。その話でいうと、昨年末の珍走隊はすごく面白かった。

柳瀬:あの日は凄かったですね(笑)。

―betcover!!の5人だけでなく、マネージャーやMVを手がけてきた映画監督の達上空也さんなどもステージに出てきて、カバーや自作曲を披露するという。去年が2回目ですよね。

柳瀬:「なんかふざけたことやろうよ」ってバンドで話して。それぞれのメンバーに「日程を決めるからステージで歌いなよ」って。しかもカバーで。あれは毎年やりたいですね。


―個人的に印象深かったのは、ギターの日高理樹さんが「柳瀬くんに教えてもらった曲」と紹介してカバーした……。

柳瀬:「のりもの博物館」ですよね、あれは最高だった。小さい頃にVHSで観た、乗り物を紹介する子供向けビデオのオープニングテーマがめちゃくちゃ攻めてて。

『卵』をレコーディングする前に、新潟で合宿をしたんですよ。別に何をするわけでもないけど、新潟の曾祖父さんの家が空き家になってるので、日本酒を呑む会をずっとしてたんです。そこで「最近いい曲ある?」という話になって、「のりもの博物館」のテーマを教えたら、理樹さんがすごく感動しちゃって。子供向けビデオの曲にしては(声が)ハスキーすぎるし、ウィスパーボイスで、音程がちょっとズレるところも最高なんですよ。“のりものに乗っていたら/いつの間にか小さな夢を/たくさん見たの”っていう歌詞もよくて。

―betcover!!の歌詞にも通じるものがありますね。あのときの柳瀬くんは嬉しそうだった。

柳瀬:ぶちアガりましたね。ちょっと泣きそうになったくらい。



―あとは、井上陽水のカバー率が高かった気がします。

柳瀬:たしかに。「また陽水じゃん」となってましたね。みんな好きなんじゃないですか。

―バンド内で聴かせ合っているわけではない?

柳瀬:全然。(どの曲をカバーするか)当日まで秘密なので。「お前が一番気持ち込められる曲を選んでこいや!」って。



―柳瀬くんも大好きだと思うけど、どこに魅力を感じますか。

柳瀬:エロい。僕は耽美系が好きなんですよ。井上陽水は耽美ではないけど、メロウじゃないですか。メロディや歌詞にも憧れますし。

―そう言われてみると、betcover!!の音楽も「エロさ」を大事にしていますよね。今回の『卵』は特に。

柳瀬:そうですね。



―「エロさ」が大事だと思う理由は?

柳瀬:僕の好きなものには絶対に入っている要素だから。音楽以外でもそう。エロティシズムというのは表現として欠かせない部分だと思うんですよ。人間になくてはならないものの一つ。でも、最近はそこがクリーンになってきているじゃないですか。

―猥雑さが失われているというか、「見せない方がいい」みたいな。

柳瀬:そういう風潮がありますよね。ただ、日本っていう僕らの土地柄には、エロっていうのは昔から大きなジャンルとしてあるわけだし、文化の発展にも大きな影響を与えてきたわけじゃないですか。エロとして描かれるものに宿る、作者のエネルギーって半端ないなって感じることがあって。表現としての強さがすごい。それに日本のエロって、海外のエロとはまた違った何かがあるというか。うまく説明できないけど……。

―日本独自に発展してきたところがありますよね、和エロ文化というか。

柳瀬:これはどこかで見かけた話ですけど、エロって一番尖った表現ができるコンテンツなんですよね。なぜかというと、エロはおまけでいい。例えばエロ漫画もそうで、エロを扱ってさえいれば何をやってもいいという自由さがある。そういうところが面白いなって。ただ、音楽は直接的にエロを持ち込むことができないので、「音楽におけるエロってなんだろう?」って考えるんです。だから『卵』も含めて、僕にとって最近の大きなキーワードがエロで、そこを指摘してもらえるのは嬉しいですね。

それに最近は、音楽以外のところで「内にあるエロ」を見かける機会が増えたような気がして。例えば、『チェンソーマン』とか僕も好きなんですけど、作者の性癖を凝縮させたものが表現に顕れている感じがしますよね。そういうものが世の中に受け入れられるんだなと。

―そこが妄想というファンタジーの良さでもあるわけで。

柳瀬:そうそう。妄想は縛られない方がいいと思うんですよね。



―『卵』の参考曲を集めたプレイリスト(詳しくは後述)に、小椋佳「思い込み」が入ってましたよね。70年代の歌謡曲で、“何よりまして 自由なものは/心の中の ものおもい”という歌い出し。

柳瀬:あれは本当にいい曲。あの辺の音楽が好きなんですけど、だからといって古い音楽が好きというわけではなくて。それよりは、失われたものを求めている感覚というか。別に今でもあればいいんですよ、あるならそれを聴くだろうし。まあ、海外ではひょっとしたら何人かいるのかもしれないけど……。

―日本では絶滅危惧種ですよね。だから、自分で作るしかないと。

柳瀬:そうですね、僕は和エロが好きなので。和エロの後継者としてやっていきたい(笑)。

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