エズラ・コレクティヴに聞くUKジャズを変えた音楽教育、チャート1位獲得より大切なこと

エズラ・コレクティヴ(Photo by Aliyah Otchere)

 
エズラ・コレクティヴ(Ezra Collective)の来日公演が3月7日(火)に東京、9日(木)に大阪のビルボードライブで開催される(東京公演はソールドアウト)。Rolling Stone Japanでは前回取材したリーダー/ドラマーのフェミ・コレオソに引き続き、彼の実弟であるベーシストのTJ・コレオソにインタビューを実施。聞き手はジャズ評論家の柳樂光隆。

エズラ・コレクティヴは現在のロンドン・ジャズにおける象徴的存在の一つだ。その理由はジャズを軸にグライムやアフロビーツ、ヒップホップなどを取り込んだロンドン独自のサウンドのみならず、近年のロンドンにおける草の根レベルから始まった音楽教育を経ていることだったり、ロンドンらしい多文化性を表現している音楽性だったり、様々な側面から語ることができる。そういう観点からも、TJ・コレオソのキャリアはとても興味深い。

TJは名門音大出身者のエリートたちが集うエズラ・コレクティヴのなかで、唯一の叩き上げ。バックグラウンドを問わず無料で学ぶことのできる音楽教育機関Tommorow’s Warriorsを経て、様々なミュージシャンと交流しながら腕を磨き、着実にグルーヴを生み出す演奏で今や世界的バンドとなったエズラ・コレクティヴを支えている。

彼の言葉にはUKに根付くDIYのマインド、そして、近年のロンドン・シーンから感じられる「やさしさ」みたいなものが随所に滲み出ていた。待望の来日公演を前に、エズラ・コレクティヴが持つピースフルでジョイフルなムードの理由を、TJの言葉から読みとってもらえたら嬉しい。


TJ・コレオソ、2020年にビルボードライブ大阪で開催された来日公演より




―どんなきっかけでベースという楽器を選んだのでしょうか?

TJ:兄のフェミは3歳の頃からドラムをプレイしていて、僕はずっと音楽に囲まれて育ってきた。でも、僕自身はずっと自分の楽器を持たなかったんだ。11歳の時に通っていた教会のベーシストが辞めてしまった。その時、父が「ベースをプレイしてみないか?」と言ってくれて、ベースを買ってくれた。その2週間後には僕は教会でプレイしていたよ。それからずっと教会だけでベースを弾いていたんだけど、15歳の頃、兄に誘われてTommorow’s Warriorsに通うようになって、そこでジャズを学びはじめた。それまでゴスペルしか知らなかった僕がジャズやファンクを知り、次第にロックを含めた幅広いジャンルを学ぶようになり、そこから本気で音楽に挑むようになっていたんだ。


Tommorow’s Warriorsの紹介動画

―Tommorow’s Warriorsの設立者、ゲイリー・クロスビーはベーシストですよね。彼から学んだことは?

TJ:自信を持ってプレイすることの重要性だね。Tommorow’s Warriorsに参加した時、僕はジャズをどうプレイしていいのか知らなかった。そもそもどうやってベースをプレイすればよいのかすらわかっていなかったくらいだから(笑)。

2回目に行った時だったかな。みんなでブルースをプレイすることになったんだけど、周りのレベルがあまりにも高くて僕はビビっていた。でもゲイリーは「B♭をプレイする時は自信を持ってプレイするんだ。強い気持ちを持ってプレイすればそれでいいから」ってアドバイスをくれた。それで実際にプレイが終わると、「TJのプレイをみんな聴いたか? タイム感ピッタリの凄いプレイだったよな!」と、みんなの前で言ってくれた。僕はシンプルなことしかプレイしていなかったけど、彼のおかげで自分が世界で最もアメイジングな仕事をやってのけたかのような気分になれた。

彼は誰に対しても「自分らしいプレイをするんだ!」と、とにかく自信を植え付けさせていた。今でも僕の心の中にはゲイリー・クロスビーがたくさん入っている。プレイする時はいつも彼に恥じないようにプレイしているんだ。

―いい話ですね。

TJ:僕らはよき先生たちに恵まれていた。ゲイリーもそうだし、アブラム・ウィルソンやスティーヴ・ウィリアムソンといった人たちが指導してくれた。若い人たちは「君はできる。あっちに向かっていきなさい」ということさえ教えてもらえたら、他は何も要らないんだ。僕らの多くがTommorow’s Warriorsの出身で、みんな「自分たちにだってできる」ってことを学んできた。そして、いつの間にか自分と同じような人が成功している光景を目にするようになってきた。グライム、R&Bなど様々なジャンルで通用する音楽を作ったら、それで誰かをインスパイアすることができるってわかった。そして、ジャズのエリートだけじゃなくて、僕みたいな普通の人にだってやれるってことがわかったんだよね。


Yamaha Jazz Experience Band Competition(19歳以下)で優勝し、ロイヤル・アルバート・ホールに出演したエズラ・コレクティヴ(2013年)

ー教育機関でいうと、ロンドンにあるKinetika Blocoという組織も気になっています。エズラ・コレクティヴとも縁が深い団体ですよね。

TJ:僕は所属していないけど、フェミとイフェ・オグンジョビ(トランペット)はそこで育った。先月リリースになったフェラ・クティ「Lady」のリミックスバージョンをプレイした際、Kinetikaのキッズたちを招いて一緒にプレイしてもらったんだ。子供たちだけで組んだ大きなマーチングバンドがロンドン中から来てくれて、ホーンセクションやマーチングのスネアドラム・セクションはもちろん、ダンサーたちも来てくれた。多くの子供たちがKinetikaで音楽への愛を身につけてきたことが感じられたよ。

幼い頃に両親に連れられて音楽のレッスンを受けに行く子って、実は乗り気でなかったりするでしょ? でも音楽界の強い情熱を持った人たちが集まることで、燃え盛る情熱が自分の中に生まれてくる。Kinetikaはロンドン中の若い子供たちにそれが実現出来ていて、子供たちはサマースクールなどを通じて驚異的な音楽に徹底的に触れている。フェミだって昔は「今日こんなこと学んだんだよ!」って感じでサン・ラや(トム・ブラウンの)「Funkin' for Jamaica (N.Y.)」といった僕が知りもしなかったような音楽をそこで学んでいた。Kinetikaはサウス・ロンドンの若年層の音楽的な素養の形成に大きな貢献をしているんだ。



Kinetika Blocoの紹介動画

―Kinetika Blocoの子供たちが、発表会でエズラ・コレクティヴの曲をプレイしている動画もありますよね?

TJ:3、4曲ほどプレイされているのを目にしたことがあるけど最高な光景だよ。フェミたちがサン・ラを知った場所で、今は子供たちが僕らの曲をプレイしている。僕らの曲を学んでくれた彼らが、10数年後にどんな音楽をやるんだろうって想像してしまうよね。「彼らは自分でバンドを組んで、自分たちの音楽を作るのだろうか?」ってね。そんな彼らに影響を与えたものの一部に僕らがもしなれたなら、それ以上のことなんて他にないだろうね。誰かをインスパイアする存在になれるっていうのは、チャートのナンバーワンになるよりも素晴らしいことだよ。


Translated by Tommy Molly

 
 
 
 

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